インバウンド集客を成功させる6つのポイント
インバウンド需要が急速に回復しています。日本政府観光の調査によると、2023年の訪日外国人旅行者数は推計2507万人で、これはコロナ禍直前だった2019年の約8割の水準です(https://www.jnto.go.jp/news/press/20240117_monthly.html)。最近の傾向で注目されるのは、地方の隅々にまでインバウンドが訪れていることです。例えば2024年2月の中国の春節中に、青森県三沢市の宿泊施設では香港からが2019年比で約2倍、台湾からが同約1.2倍と、インバウンドの宿泊客数が大幅に増加しました。
今や、インバウンド需要の獲得は大都市の人気店だけでなく、国内すべての飲食店にチャンスがあるといえます。そのチャンスをしっかりつかむための重要ポイントを紹介しましょう。
①「この店でしか楽しめない」看板メニューや体験を用意する
当たり前のことですが、おいしいメニュー、しかも「この店に行かないと食べられない」メニューがある店に、人々は行列を作ります。例えば「肉汁水餃子 餃包 新宿店 」(橘内久米樹オーナー)の看板メニューの水餃子は、小籠包のように流れ出る肉汁が特徴です。白湯スープや火鍋スープとともに鉄鍋で提供され、鍋物感覚で楽しめます。こうした体験とおいしさは外国人旅行者にも人気で、同店の売上高のなんと約70%をインバウンドが占めています。
インバウンド客はメニューや提案、楽しみ方などの説明を重視します。そのため英語のメニューやポップの用意は必須で、英語や中国語を話せるスタッフがいればより理解を深めてもらえます。しかし話せない場合でも、コミュニケーションを取ろうとする姿勢こそがサービスです。翻訳機などを活用しながらコミュニケーションに努めることが、インバウンド客のリピーターを生む要因の一つになっています。
②「価格訴求」ではなく「価値訴求」に重点を置く
食を楽しみに来日したインバウンド客に、日本人向けと変わらない大衆的なメニュ−を提供している店が少なくありません。それでも満足はされるでしょう。しかしインバウンド客の多くは、希少価値の高いお酒や食には惜しみなくお金を払いたいと思っています。ですから「価格訴求」ではなく「価値訴求」に重点を置かなければ、非常にもったいないのです。
例えば天保年間創業の日本料理店「なだ万 」(東京・渋谷)は、日本人客向けとは別にインバウンド向けのコースを用意しています。日本人向けの「お祝い懐石」は、コース7品に伊勢海老姿造りと松坂牛サーロインステーキを加え、1万8150円。一方、富裕層をターゲットにしたインバウンド向けのコースは懐石料理に高級食材をふんだんに使い、3万円。その価格でも連日予約が埋まるため、なだ万ではインバウンドの大きな可能性を確信しているそうです。
ただし、インバウンドは単価を上げることができますが、それを目的にするとお客様が逃げてしまう危険性もあります。高単価だからというのではなく、まずは価値の提供を目的にすべきです。インバウンド客は、例えば店にアワビがあるのにコースで提供してくれなかった、ということに大きな不満を感じます。そんな心情を踏まえた提案を行うことが、インバウンド集客成功の近道ではないでしょうか。
③SNSを活用して情報発信に力を入れる
「旅マエ」のインバウンド客は、訪れる地域や店などの情報を丹念に集めて準備します。そのためSNSやブログを活用して情報発信に努めることが、集客力を高めるために重要です。ただし数多くある飲食店のSNSの中から目にとめてもらうには、特徴や工夫が必要です。店やメニューの紹介だけでなく、「飲食あるある」をまとめた面白くてエスプリの効いた動画をアップしている飲食店もあり、それが1本の動画が1500万回も再生されることもあり、集客につながっています。
とはいえ、ブログやSNSの運用を日常業務にすると作業負担が大きく、継続が難しくなりがちです。そこで同店では、ブログやSNSにまとめて投稿できる管理ツールを活用しています。投稿のクオリティを落とさずに毎日更新できることで、集客効果をあげているのです。
④コミュニケーション強化で口コミ効果をあげる
SNSによる集客効果は、多くの場合、店側の情報発信よりも利用者による口コミのほうが大きいのが現状です。国内でも海外でも、口コミで集客効果を高めるには、影響力の高い人とのコミュニケーション強化を図ることが重要となります。そうした背景を踏まえて、例えば、FACEBOOKのコミュニティを活用し、オーナー自身がSNSのコミュニティに積極的に参加している飲食店も少なくありません。
特に海外には、そうしたコミュニティで情報を集める人が大勢います。注目したいのは、自分から情報を得ようとする人は感度が高く、影響力のある場合が多いこと。だからこそ、一度来店してもらえれば、知人に紹介してくれたり、Googleに口コミを書いたりしてくれるケースが多いです。
⑤口コミサイトやインバウンド集客支援サイトなどを活用する
口コミで集客力を高める効果的な手段のひとつが、口コミサイトやインバウンド集客支援サイトなどの活用です。インバウンド集客の強化に際し、まず思いつくのが「トリップアドバイザー」の活用でしょう。トリップアドバイザーは、旅行に関する世界最大の口コミサイトを運営するオンライン旅行会社です。同サイトには登録店の情報が掲載され、店を実際に利用した人が口コミを書きます。その口コミ情報が拡散され、新たな旅行者が店を訪れるのです。
店にとっては、利用客に口コミを書いてもらうことがまず重要ですが、例えば一品サービスなどでお願いすることは規約上できません。同店はサービスや商品価値の向上に努め、その上で最後の一押しとしてお客に口コミのお願いをします。口コミは顧客満足度の定量化ととらえ、その結果を真摯に受け止めて店のレベルアップにつなげていきましょう。
⑥自店のホームページをしっかりとつくる
「旅マエ」のインバウンド客は、訪れる町にある飲食店のホームページにも熱心に目を通します。店は独自のメニューや提案、体験などのアピールを怠ってはいけません。冒頭に紹介した「肉汁水餃子 餃包 新宿店」も自店のホームページをしっかりと作るとともに、「Googleビジネスプロフィール」の活用にも力を入れています。またトリップアドバイザーで店に興味を持った人がホームページに飛ぶように設計し、英語メニューを用意するとともに予約フォームも準備。インバウンド客を中心に、そうしたメニューを確認したうえでの予約が増加しており、現在は3カ月先まで予約が埋まっています。
同店はさらに閲覧者がどのような検索ワードでホームページにたどり着いたかを解析。その結果を踏まえて、例えば「ベストレストラン」というキーワードを使ったり、また「餃子」を表すのに漢字やローマ字、カタカナを使い分けたりするなど、地道な改善を積み重ねながらインバウンド集客の最大化を図っています。
訪日外国人が右肩上がりに増えて、現在、飲食店ではインバウンド客の奪い合いが起きています。その中で、集客に成功しているのは、しっかりとした戦略を持った飲食店です。ぜひ上記の6つのポイントを参考にしながら、インバウンド集客の戦略を練ってみてください。