居酒屋の経営は難しい?成功のポイントや利益率を上げる方法を解説
居酒屋は、深夜までお酒や料理を気軽に楽しめる飲食店の一形態です。わいわいがやがや楽しい雰囲気に憧れて新規開業を検討する方も多いと思いますが、居酒屋は廃業・撤退件数も非常に多い業種でもあります。
開業に踏み切る前に、居酒屋の経営が難しいといわれる理由について考えてみる必要があるかもしれません。そこで今回は、居酒屋経営を成功させるポイントから利益を上げる方法までを解説します。
成功させるコツや利益率をしっかり把握したうえで取り組めば、長く愛される居酒屋に育てていけるでしょう。ぜひ本記事を参考に、居酒屋経営に役立ててください。
【居酒屋経営】開業資金と平均年収
開業資金は、居酒屋を始めるために必要な初期投資額です。開業してから黒字経営に転じるまでの運転資金はどのくらい必要なのか、開業資金の回収期間を予測するためには経営者の年収についても把握しておくことが必要です。
ここでは開業資金の目安と、居酒屋経営者の平均年収について解説します。
居酒屋経営に必要な開業資金の目安
日本政策金融公総合研究所調べでは、約6割の飲食店が事業が軌道に乗るまで6ヶ月以上かかっています。そのため、最低6ヵ月分の運転資金を準備しておく必要があります。居酒屋の開業資金は、店舗の規模・立地・家賃などによっても大きく変動しますが、目安として約700万~1,200万円ほどの資金が必要になるでしょう。
経営者として不測の事態を避けるためにも、開業資金の具体的な数値を把握し、資金計画を立てておくことは欠かせません。必要に応じて居抜き物件を利用するなど開業資金をできるだけ抑えて、事業が軌道に乗るまで運転資金を少しでも多く残しておくことを頭に置いておいてください。
居酒屋経営者の平均年収
個人事業主の場合、売上から経費を差し引いた営業利益で計算することが可能です。
居酒屋経営者の平均年収はさまざまな要因に左右されるため一概にはいえませんが、600万円が一般的な相場といわれています。ただし、成功した店舗や複数店舗を展開している経営者の場合は、年収が1,000万円を超えることもあります。店舗の規模や立地条件、運営の仕方、さらには経済状況や消費者のニーズの変化によっても影響されるでしょう。
国税庁の令和5年分民間給与実態統計調査によると、日本人の年収の平均値は460万円でした。飲食店経営者の半数が年収500万円以下であり、1,000万円以上稼ぐ経営者は全体の8%だったとの調査結果もあるので、注意が必要です。
居酒屋経営を始めるために必要なこと
2023年度の(社)日本フードサービス協会の調査によると、外食産業の中でも居酒屋の売上水準は、コロナ禍前2019年の水準を下回る状況が続いているそうです。この厳しいなかに開業するからには、ぜひとも半年後を目標に、居酒屋経営を軌道に乗せて黒字転換しなければなりません。ここからは、居酒屋経営を始めるために必要なことを説明します。
居酒屋開店までの流れ
開業の一年〜半年前までには、お店のコンセプトを決めましょう。コンセプトの決定は居酒屋経営の指針となる大切なもので、お店の売りとなるメニュー作り・お店の顔となる看板・什器や雰囲気作りにまで影響します。そのため、じっくりアイデアを出し、「こんなお店でこんな料理とお酒でこんな客層を迎えたい」という経営者としてのコンセプトを明確にしてください。コンセプトが明確になると、ターゲット・店舗物件の立地や食材の仕入れ先が自ずと見えてきます。居酒屋開店までの流れは、以下のとおりです。
- コンセプトの決定
- ターゲット・メニュー考案など具体的な事業計画の立案
- 店舗物件を探す
- 資金の調達
- 物件の確保・契約
- 内外装の工事
- 厨房機器の購入・リースなど設備の準備
- 資格取得と営業許可手続き
- 広告宣伝の手配
- 従業員の採用
- レジ決済システムの導入
上記のような工程で開店準備を進めます。居酒屋経営を成功させるためのポイントを押さえて準備を進めるためにも、開業までの準備期間として一年半ほどを見込んでおきましょう。
居酒屋経営に必要な資格と届け出
まず飲食店開業に必要となるのは、食品衛生責任者と防火管理者の2つの資格です。食品衛生責任者は、衛生的な管理運営を行うために必要であり、防火管理者は収容人数が30名以上の店舗において消防設備の管理や消防計画を作成するために必要です。
この2つの資格とあわせて、居酒屋の開業には以下の4つの資格と届け出が必要ですので、事前に揃えておきましょう。
- 食品衛生責任者
- 防火管理者
- 飲食店営業許可
- 深夜酒類提供飲食店営業開始届出書
食品衛生責任者は、飲食店を開業する際に必ず選任し、保健所に届け出することが義務付けられており、食品衛生協会が開催する講習会を受講すれば取得することができます。なお、調理師など特定の資格保有者であれば講習の受講が免除されます。
また、防火管理者を選任して消防署に届出をしなければなりません。消防署などで実施される防火・防災管理講習を受講して資格を取得してください。
さらに、保健所で飲食店営業許可証の取得と、店舗住所のある都道府県の公安委員会にて深夜酒類提供飲食店営業営業開始届出書を提出することが必要です。これによって、店舗で調理した料理と深夜0時以降の酒類の提供が可能になります。飲食店営業許可を申請する際は、事前に工事着工前の図面・施設の図面などを持参して保健所へ相談しておきましょう。併せて、井戸水などを使用する場合は水質検査も必要です。
居酒屋の経営が難しいといわれる理由
居酒屋の経営が難しいといわれるのには、初期費用が大きい・競合が多い・環境に影響を受けやすいという3つの理由があります。順番に詳しく確認しましょう。
初期費用が大きい
居酒屋の経営が難しいといわれる理由の1つに、開業までに必要となる初期費用が大きいため、開業してから回収するまでに時間がかかるという点があります。また、人件費と原材料費のウエイトが大きいため、売上で回収するのも時間がかかります。
そのため、用意した700~1,200万円前後の開業資金を回収するために開業して半年間は赤字が続くことが珍しくありません。営業が軌道に乗ってからも、席数や回転数によって居酒屋一店舗が一日当たりに稼げる売上額には限りがあります。したがって、常に利益を出し続けるための経営努力のほかにも忍耐力が必要とされるでしょう。
競合が多い
居酒屋は資格取得や開業手続きが容易な反面、競合が多く固定客の獲得競争を強いられるため、生存競争は激しさを増しています。特に、お金を出せば暖簾分けで簡単に参入できる総合居酒屋の多くは、閉店や倒産を余儀なくされることも少なくありません。
そのため「あの居酒屋の〇〇を食べたい」「バースデー利用するなら〇〇の居酒屋」という他店にない来店のための目的ができるような強みが必要といえます。市場に多くの競合が存在しているうえ、新たな競合が続々と参入する可能性が高いため、開業してからも常に新規顧客を開拓する経営努力が求められます。また、自店の売りを常に用意して競合店との差別化を図らなければ、来店した顧客がリピーターに成長する可能性も低いでしょう。
環境の変化に影響されやすい
居酒屋経営が難しいといわれる原因には、環境の変化が利益に大きな影響を与えやすいこともあるでしょう。例えば、天気の良し悪しでも売上に大きな差が出ます。人件費と原材料費のウエイトが大きいうえに、天候不順や国際情勢の変化などにより食材価格が大きく変動するため、売上の利益率にも影響してしまいます。
昨今の感染症の流行が飲食業界全体に大きな打撃を与えたことは、まだ記憶に新しいかもしれません。環境の変化に影響されて売上の予測が立て難いうえに、メニュー価格に即座に反映させることも難しいことを覚えておきましょう。居酒屋の利益率と抑えるべき指標についても開業前に再確認したうえで、積極的に売上につながる工夫に取り組むことが大切です。
居酒屋経営を成功させるためのポイント
居酒屋の経営を成功させるには、以下の5つのポイントを徹底してください。
- コンセプトとターゲットをしっかり決める
- マーケティングをして立地選定する
- 接客に力を入れてリピーター獲得を目指す
- お店に合う広告宣伝の計画を立てて集客に力を入れる
- お金の動きなど経営に関する知識を身につける
順番に、詳しく解説します。
コンセプトとターゲットをしっかり決める
居酒屋経営を成功させる鍵は、コンセプトをしっかり決めることといっても過言ではありません。コンセプトが決まるとターゲットも自ずと見えてくるため、客層に応じた接客や料理メニューが決まります。
コンセプトを決めるときは、業界のトレンドや人気店でのリサーチなどの調査をしっかりと行ってコンセプトを決めるためのアイデアとなる情報を集めてください。「こんな料理とお酒をこんな雰囲気で提供したい」など自分の希望でコンセプトを決めたりなんとなくコンセプトを決めたりしてしまうと、第一印象と実際の店内の雰囲気が一致しなかったり、メニューと価格帯にブレが生じたりする可能性があります。
マーケティングをして立地選定する
居酒屋の成功には、マーケティングを活かした立地選びは特に重要なポイントとして欠かせません。
自店の居酒屋のコンセプトと照らし合わせながら、ターゲット層や地域性に適した立地を選んでください。また、実際に何度も足を運び、時間帯によって人の流れや客層の変化などもチェックしておきましょう。選定した立地周りにどのような競合店があるかだけでなく、地域の行事や名物料理などのご当地ネタをあらかじめ入手しておけば、常連客との会話も弾みます。さらに、公式WebサイトやSNSアカウントは開店前に開設し、自店の売りとなる料理や接客の魅力を発信しておくことも忘れないでください。
接客に力を入れてリピーター獲得を目指す
リピーターとは、お店に2回、3回と複数回にわたり来店してくれる優良顧客のことです。リピーターを増やすための取り組みとして、料理メニューや雰囲気の満足度を高めるだけでなくサービス接客の質の向上は欠かせません。リピーターが増えると、集客コストが抑えられて売上が安定し、流行や環境の影響を受けにくくなるため、新規顧客の集客につながるといったメリットもあります。接客に力を入れる施策を行いリピーターを増やし、安定した店舗経営を目指しましょう。
お店に合う広告宣伝の計画を立てて集客に力を入れる
居酒屋経営を成功させるためには、ネットで検索したときにお店の情報が出てくるか、お店の情報をきちんと発信できているかどうかはとても重要です。
具体的には、ホームページを開設し、GBP(Googleビジネスプロフィール)にも自店の魅力をアピールしてください。また、インスタグラムなどSNSでの発信にお店の情報を載せる努力を惜しまないようにしましょう。看板・メニュー・おすすめボード・ショップカードなどの販促物も受注します。
開業前から長期的視野に立って、お店に合う広告宣伝の計画が実行・成功していれば、開業と同時にスタートダッシュをかけられます。開店日が確定したら、ホットペッパー・ぐるなび・食べログ・タウン誌などへの広告などで周辺地域への集客施策も行いましょう。開業後も集客施策(キャンペーン)を定期的に実施し、顧客に忘れられないお店作りを意識してください。
お金の動きなど経営に関する知識を身につける
居酒屋経営者として利益を上げるには、お金の動きなど経営に関する知識をいかに身につけるかが重要です。上述した開業時に求められる2つの資格のほかにも、財務処理能力・労務管理能力・コミュニケーション力など幅広いスキルが求められます。
経営者一人ですべての資格やスキルを習得することが難しい場合は、従事者に取得させたりスキル保有者を従業員に選んだりするという工夫をしましょう。
資金計画の甘さや財務管理がうまくできないことが、運転資金の枯渇につながる恐れもあります。また、開業して間もない多忙な時期は毎日の伝票管理や従業員の勤怠管理などの業務を迅速に行う必要があります。そのため、顧客管理も並行して行えるPOSレジの導入を検討してみるのもよいかもしれません。
居酒屋経営における利益率を上げる方法
ここからは、居酒屋経営で利益率を上げる方法を解説します。
家賃や水道光熱費など固定費の見直し
居酒屋の経営では、食材費など売上によって増減する変動費のほかに、家賃や人件費などのように売上に関係なく必要とされる固定費が発生します。
固定費は一度見直してしまえば先々まで支出を抑えられるため、定期的に見直しを行うようにしましょう。
例えば、長く契約することで家賃を割引してもらうなどの交渉ができれば、損益分岐点もかなり下がる見込みになります。また、電力会社および電気の契約プランの変更など電気代の見直しや厨房機器などのリース契約の見直しも必要です。使用頻度が低い場合は、その機器はそもそも必要なのかも含め検討してください。
このように、経費を定期的に見直すことで、長期的なコスト削減につながり、店舗の経営をより安定させることができます。
食材費や仕入れ方法の見直し
開店当初は来店数が把握できず、食材を無駄にしてしまう場合もあるでしょう。食材ロスが長く続けば、運転資金が思ったより早く底をついてしまう結果につながりかねません。無駄を減らすため、メニューを増やしすぎない・同じ食材をいろいろな料理に使うなどの工夫が大切です。
また、お店の売りとなる看板メニューを決めてから全体のメニューを決めるのが一般的ですが、その際に食材ロスを減らせるような構成も意識しましょう。また、定期的に食材のロスを減らせるようメニューを見直し、仕入れ方法に無駄がないかチェックを忘れないでください。
人件費や営業時間の見直し
売上から人件費などの経費を差し引くと、お店の純利益が計算できます。実際には、売上の90%程度が経費となることが多く、その大まかな内訳は家賃10%・食材費30%・人件費30%・水道光熱費10%・広告宣伝雑費10%です。売上から経費の90%を引いた残りの10%が経営者の年収なので、月に平均500万円を売り上げるお店の経営者の月収は50万円・年収は600万円程となります。
このように、月々の売上は経営者の年収にも左右するため、モチベーション維持のためにも経費の見直しは定期的に行いましょう。もし年収1,000万円を目指すのであれば、月に840万円程の売上が必要です。お店の立地や規模からある程度の売上予測は可能なので、年収が希望金額に及ばない場合は人件費や営業時間などを見直してください。
まとめ
今回は、居酒屋経営を成功させるポイントやきちんと利益率を上げる施策について紹介しました。
人件費や食材費など経費が常に把握できているか、お店の売りを発信できているかどうかが、半年後に経営が黒字になる分かれ目ともいえるでしょう。
コストを抑える半面、利益をお客様に還元できるようなイベントや施策を打ち出すことでお客様との信頼関係も築くことができ、居酒屋の成功に近づくかもしれません。
この記事が、あなたの居酒屋経営を成功させる一助となれば幸いです。
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この記事を監修した人
木下洋平
経営コンサルタント
中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント、日商簿記1級を保有する。株式会社リクルートなどの勤務を経て現職。