居酒屋開業を成功させる立地選びのポイント|物件の選び方も解説
数ある飲食店の形態のなかで、居酒屋は深夜営業やアルコール類を提供しており、わいわい楽しい雰囲気が人気で競合が多いジャンルの一つといえるでしょう。
しかし、中小企業庁が報告した2024年度の廃業率を見ると、宿泊業・飲食サービス業の割合が高く、居酒屋もその例外ではありません。
居酒屋を開業する際は、正しい手順に沿ってしっかり立地を選び、プランを練る必要があります。
今回は、居酒屋開業を成功させるための立地選びのポイントを解説します。具体的な物件の選び方も紹介しますので、居酒屋開業を計画している方はぜひ参考にしてください。
居酒屋開業を成功させる立地選びのポイント
居酒屋を成功させるには、立地選びは非常に重要です。ここでは、立地選びのポイントを順番に解説します。
コンセプトと合っているか
居酒屋を開業する際には、まず大まかなコンセプトを決める必要があります。コンセプトとは、そのお店が提供する価値や方向性をわかりやすく示すもので、具体的には以下のようなものです。
- 立ったままお酒を楽しむ立ち飲み居酒屋
- 値段が安く気軽に立ち寄れる大衆居酒屋
- おしゃれな料理やお酒が楽しめる創作居酒屋
- 人目を気にせずプライベート感が売りの個室居酒屋
- 日本各地の郷土料理や地酒が楽しめるご当地居酒屋
- 懐かしい雰囲気が楽しめるレトロ居酒屋
このように、居酒屋業態は飲食店の中でもコンセプトの多様性が群を抜いているジャンルと言えます。競合店がひしめくライバルのなかで生き残っていくためには、揺るがない独自性のあるコンセプトが必要です。他店との明確な差別化ができていると「また来たい!」と思わせる来店動機につながるため、ブレない確固としたコンセプトを設計してください。
ターゲット層の来店が見込めるかどうか
居酒屋のコンセプトを設定する際に狙うターゲット層は、立地選びに大きな関わりがあります。例えば、ターゲット層がビジネスパーソンであれば、仕事帰りに立ち寄れるようオフィス街・駅近を選ぶべきでしょう。学生や若年層に安く利用してもらいたいのであれば、学生街や若者が多く住む地域を狙うことが考えられます。ただし、駅近や駅前の物件を探す際にも、調査する時間帯によって年齢層や客層は異なることに注意してください。また、住宅街の立地を探す際には、その地域の住民の家族構成や年収などを分析する必要があります。インターネット上で調べるだけでなく、実際にその場所に足を運んで調査することが大切です。
交通の利便性がよいか
アルコールを提供する居酒屋では、利用客が自分で車を運転せずとも帰宅できるような交通の利便性を考える必要があります。駅前や駅直結または駅から近い立地であれば、利用客は気兼ねなくアルコールを飲めるため気軽に店舗を利用できるでしょう。また、大通りから離れた場所であってもタクシーをつかまえやすい場所であれば、利用客がスムーズに帰宅できます。このような交通の利便性は、来店のきっかけにもつながる重要なポイントです。
夜に人通りがあるか
居酒屋は基本的に夜の時間帯に営業しているため、夜の人通りの量は大変重要なポイントです。昼間の時間帯はとても賑わっていても、夜には人通りが少なくなる場所もあるでしょう。たとえ駅近で人通りが多い場所であっても、そのほとんどが寄り道をせずに帰宅を急ぐ中継駅の場合もあるかもしれません。出店を検討している立地が、時間帯によって人通りにどのような差があるのか、事前に調査して把握しておく必要があります。
土地勘があるか
居酒屋は、店主と利用客との会話・客同士やスタッフとのコミュニケーションといったものも楽しみの一つの要素です。地元の利用客であれば、共通の話題で盛り上がることで親睦が深まるでしょう。その地域を初めて訪れた利用客であれば、地域の有益な情報を提供することで、リピーター獲得のチャンスが生まれるかもしれません。そのため、常連客との会話に柔軟に対応できるよう、土地勘のある立地を選ぶことが重要です。
主な立地の種類
居酒屋の出店に考えられる立地には、以下のような種類があります。
- 駅近
- 郊外
- 繁華街
- ビジネス街
- 高級住宅街
- 裏通り
- 商業施設
ここからは居酒屋の立地選びについて、種類ごとの特徴・メリット・デメリットを解説していきます。
駅近
駅近は人通りが多く常に駅からの人の流れが見込めるため、目につきやすい・集客に強い・衝動来店を狙いやすいというメリットがありますが、家賃が高額になる傾向があるので注意しましょう。また、駅前だからといって必ずしも集客が見込めるわけではありません。大学がある駅であれば学生や若者層、住宅街であれば通勤後の会社員や主婦層など、ターゲットとする客層の客単価にも注目し、実際に駅を利用するのはどのような客層か現地調査を行うことをおすすめします。
郊外
郊外の物件は賃料が安く、周囲に飲食店や大手チェーン店が少ないため、競合が少ないというメリットがあります。物件によっては保証金や礼金なども低く設定されていたり、広々としたスペースで席数に余裕があったり、地域密着型の話題で盛り上がったりできる可能性があります。その土地の自然や料理を味方に付けることができれば、長く人々に愛される居酒屋に成長するでしょう。ただし、集客には努力が必要で、普通に営業しているだけでは難しいかもしれません。
繁華街
出店立地は人通りが大事です。その点、繁華街であれば人の流れが見込めるため集客がしやすい立地といえます。ビジネスパーソンが仕事後に立ち寄りやすいオフィス近くや駅近くの繁華街などは、さらに好立地といえます。ただし、繁華街は家賃が高めに設定されているため、テナントの入れ替わりが激しいという特徴があります。客数が多くても相当数の売上を出さないと経営が成り立たなくなりやすい立地なので、週末の席数確保は必須です。競合店との違いをはっきりと提示できるかによって、生き残れるかどうかが決まってきます。独自のサービスや業態は目を引きますが、繁華街の立地に甘えず、コストパフォーマンスを重視した安心感も考慮すべきです。
ビジネス街
会社帰りの客層を狙いたいのであれば、オフィス街に近い・オフィス街から直結する駅前といった立地がおすすめです。仕事帰りのビジネスパーソンが利用しやすい立地に加え、視察や商談に訪れた来客者も見込めます。ビジネス街の居酒屋は成功しやすいといわれていますが、土日になると会社が休みのため利用客が一気に減ってしまうというデメリットも考慮しましょう。このため土日の営業をやめる代わりに、平日にランチを提供して利益を上げる・ワンコインの弁当を販売して他店との差別化を図るなど工夫している居酒屋もあります。
高級住宅街
高級住宅街と居酒屋というのは一見マッチしないように見えますが、意外性を逆手に取った出店方法も一考の価値はあります。競合店が少ないこともポイントですが、高級住宅街で暮らしている方たちは生活に余裕があるので、客単価も期待できるでしょう。ただし、街の雰囲気に見合った外観・内装だけでなく細やかなサービスの質や什器に至るまで、高単価に見合うクオリティが求められることも視野に入れてください。他店にはない独創的な料理を提供し、珍しい地酒や貴重なワインを揃えることも舌の肥えた常連客の獲得につながることでしょう。
学生街
学生街は、学生同士やサークルなどの飲み会で利用されることが考えられます。しかし、使えるお金に限度があるため、居酒屋の立地としては判断が難しいかもしれません。成功するにはボリュームがあって低価格なのは必須条件で、客単価を低く設定しないと集客が難しい点がデメリットです。低い客単価で少しでも売上を上げるためには、料理の提供スピードを上げたり、利用時間を制限した飲み放題プランなどで回転数を上げたりするなど対策を講じる必要もあるでしょう。また、学生をターゲットとした競合店の出店も考えられるため、明確な差別化を図りリピーター獲得を目指してください。
裏通り
人目につきにくい裏通りは、表通りより通行量が少ないため、立地としての集客力は低めです。そのため家賃が格安に設定されているのが魅力で、隠れ家風居酒屋を開くにはぴったりな立地ともいえるでしょう。成功と失敗が紙一重ですが、予約の取れない名店になる可能性があるため、見逃せない立地です。ただし裏通りで成功するには、数名の利用客で貸し切りのようなゆったり楽しめる空間にするなど、他店と比べて差別化が求められます。家賃が安く抑えられる分のコストで内装に凝ったり、食材にお金をかけて手の込んだ料理を提供したり、差別化という点では駅前より有利といえるかもしれません。
商業施設
デパートやショッピングモールなどのなかにテナントとして出店するケースでは、自分で宣伝しなくても商業施設自体の集客力を活用できるのがメリットです。また、駅から近いケースであれば、仕事帰りや買い物の前後に一杯飲んでいこうと利用するパターンもあるでしょう。一方で、テナント料や更新料が高額な点などに注意が必要です。それでも、安定した集客が期待できますので、契約条件次第では検討に入れてもよいかもしれません。
立地選びで失敗しないコツは?

物件探しは、施工業者にも同行してもらうことが失敗しないコツです。
広さだけを確認して物件を押さえた場合、実際に店舗の内装を施工する段階で予定の席数を確保できないといったケースもあります。施工業者と一緒に物件探しをすることによって、設計の観点から内部を確認してもらえます。希望の席数を確保できるか、仮押さえ前に確認できるメリットは大きいでしょう。
電気や防水に詳しくない方は、親しい工事業者に付き添ってもらうのもおすすめです。工務店の知り合いがいない場合は、内装工事を考えているので内覧に立ち会ってもらえないか聞いてみましょう。
また、賃貸物件の場合、前のテナントと業態が異なると用途変更の手続きを求められることもあります。トラブル回避のため物件契約書は読んでおくことが重要です。賃貸借契約においては、契約開始日から退去時の引渡し状態の条件などを書面で明確化して確認するようにしましょう。

居酒屋の物件の選び方
物件探しの前に、開業資金の準備の方が先決だと考える方は少なくないでしょう。しかし実際には、資金調達より物件を探す方を優先しなければなりません。その理由は、物件が決まれば、自己資金ではなく融資を受けて資金を調達して開業できるからです。
資金を調達する際には、事業計画書を作成します。しかし、物件も賃料も未定である・出店予定地域での開業が確定していないといった相手には、金融機関は信用して融資できません。また、手付金なしで仮押さえできる物件もあるので、自己資金がない場合は、オーナーに交渉してみてください。まずは自店に見合う立地の物件を探すことが先決で、何度も実際に足を運んで選ぶようにしましょう。
居抜き物件を選ぶ場合の注意点
居抜き物件とは、前のテナントが造作した店舗の内装・厨房設備などがそのままの状態で残っている物件のことです。好条件の居抜き物件を見つければ、初期の工事費用を抑えて低投資で開業できることもあります。
そのため、新規にすべてを揃えるより魅力的な選択肢といえるかもしれません。
ただし、予想外の初期費用が発生した・前店舗のイメージをそのまま引き継いでしまったなどという注意点もあります。そのため、以下のポイントをチェックして選びましょう。
- 空調・厨房など設備の老朽化
- 必要な設備・什器の不足
- 換気など厨房の衛生管理
- 高額な家賃・礼金・保証金
- 防水・水回り・水漏れのチェック
居抜き物件は、まず空調や厨房設備などの劣化や老朽化を確認してください。トイレの水漏れ・厨房の床の防水などの問題も要チェックです。
また、いくら立地が申し分なくても、月々の家賃が異様に高い・出入りが激しいといった居ぬき物件は注意が必要です。家賃が払いきれないことが撤退の原因かもしれません。可能であれば、内覧の際に前テナントの退去理由をさりげなく聞いてみてはいかがでしょうか。
開業に必要な費用も考慮して立地選びをすることも大切
物件が決まったら、居酒屋開業に欠かせないのが資金の準備です。物件の取得・賃貸はじめ、店舗の設備・内装工事など、ある程度まとまった資金を用意する必要があるでしょう。事業計画書は、金融機関から融資を受ける際に提出する書類ですが、自己資金だけで開業する場合でも作成するようにしてください。
日本政策金融公庫総合研究所の調査結果によると、2023年の開業費用の平均値は1,027万円でした。新規開業の場合でも、開業資金が1,000万円以上または2,000万円以上と答えた割合は減少傾向にあるようです。つまり、居抜きや家賃の安い立地を選ぶなど、開業資金を少しでも抑える方が増えていると言えます。
少ない初期投資でコンセプト設計などにこだわらず安易に開業すると、客側としては他店と比較した場合のメリットを見いだせず、途中で足が遠のく原因となるかもしれません。まずはいくら調達すれば自店のコンセプトに沿った物件を見つけられるのか把握することから開業準備をはじめましょう。
まとめ
今回は、居酒屋を開業する立地選びについて、具体的な選定方法まで解説してきました。
居酒屋の立地選びには、実際に物件まで足を運んでみることが大切です。事前視察には手間暇がかかりますが、ストレスなく開業するためには労を惜しまないことをおすすめします。
まずは、どのようなコンセプトでどのような業態の居酒屋を開業したいかを明確にして、予算やターゲットに見合った適切な立地を検討してみてはいかがでしょうか。
しっかりマーケティングされた立地を選び、素敵な居酒屋経営を目指してください。この記事が、実際に居酒屋を開業する方々にとって少しでもお役に立てば幸いです。
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