人件費の考え方、算出方法は

FLRコスト比率から導く最適な人件費率とは

昨今、多くの問題が飲食業界を取り巻いています。特に多くの経営者が深刻な問題と捉えているのが人手不足と、人件費の高騰です。人手不足でいうと、シフトに入るスタッフがいないため、営業時間を短くしたり、休業したりするケースが増えてきました。一方で、人件費の高騰でいうと、東京都をはじめ、神奈川県や埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、京都府、兵庫県の8都府県では、最低時給が1000円を超えています。人口減少社会に突入した日本では、今後、人手不足は加速し、さらなる人件費の高騰は避けられないでしょう。だからこそ、この二つを織り込んで経営戦略を描いていかないと、長く愛される店づくりを行うことはできません。

こうした背景を踏まえると、採用費も含めた人件費は個人飲食店の場合、大きなコストと捉える傾向が強くなります。しかし、人件費はコストという側面だけでなく、コンセプトを実現するための投資という側面もあります。開業当初は優秀な人材を採用し育てるという考え方を持つべきです。人材が育たないとオーナーはいつまでも現場の調理作業やサービスを任せることが出来ず、お店も安定しないでしょう。ただ人件費をかけ過ぎても経営を圧迫してしまうので意味がありません。それでは最適な人件費はどの程度なのでしょうか。

それを知るのに役立つのが、FLRコスト比率という指標です。FはFood(原材料費)、LはLabor(人件費)、RはRent(家賃)を指していて、一般的な飲食店の場合、FLRコスト比率は70%だといわれています。人件費は業種・業態によって変わってきますが、おおよそ30%前後が適正な値です。例えば、お客様へ手厚いサービスを行うレストランをやりたのなら、人件費率は30%を超えるでしょう。逆に、テーブルオーダーシステムや配膳ロボットのようなテクノロジーを活用したり、セルフスタイルの場合は20%台の人件費率の店をつくることもできます。

自分のつくりたいお店によって、必要な人手は変わります。その判断の基準になるのがコンセプトです。コンセプトはお店の経営収支のFLRのバランスに大きく影響します。それが明確になると、どんなスキルを持った人材を雇うべきか、スタッフは正社員でいいのか、アルバイトでも構わないのかなども判断できます。まだコンセプトや業態を固めきれていない方は、ぜひこの機会に収支の点から見直してみてください。

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具体的な給与、時給の考え方

最適な人件比率がイメージできたら、次は具体的な数字を決めていきましょう。

社員の給与や、アルバイトの時給は、自店の周りのマーケット環境を踏まえて決めるのが一般的です。周りが1200円で募集している中、1000円だとやはり訴求力は弱くなってしまいます。昨今、売り手市場のため、求職者が優位に職場を選べる環境です。しかも求職者は飲食業界だけで仕事を探しているわけではありません。最近、「コストコ」や大型モールが出店するとエリアの平均時給を大幅に上回る金額でアルバイトを募集しているニュースを目にします。そこまで出せなくても、同じ飲食業界のライバル店と同等か、それを少し上回る金額は提示するのが得策です。求人媒体などでエリアの相場を把握した上で、具体的な金額を決めていきましょう。

なお、相場よりも少し安い給与や時給で募集できるのは、そこで働くことで他では得られな技術を習得できたりなどメリットがある場合に限られます。ミシュラン店で修行したオーナーの下で働けるや、独立支援をしてくれるといったメリットがあれば、多少、時給や給与が少なくても応募は来るかもしれません。ただ、ミシュランの星を獲得している店や、独立を支援する大手チェーン店もあるため、創業したばかりの店ではなかなか難しいでしょう。

そもそもスタッフをどれだけ採用できて、どの程度の金額で雇用できるかは売上金額に大きく左右されます。売上が上がらないと人件費をかけるわけにはいかず、オーナー自らが現場作業に入らざるを得ないでしょう。

開業後の売上見込みは、満席をイメージしがちですが、連日のように満席が続くことは、よほどの人気店でないとあり得ません。だからこそ、ある程度空席が続く営業でも続けられるような売上を把握しておきましょう。その数字こそが損益分岐点です。損益分岐点とは売上とコストが一致する地点を指します。つまり、その地点以上に売上があったら利益になり、それを下回ったら赤字になるということです。

損益分岐点を下げるには固定費をかけないようにするしかありません。ここでポイントになるのが人件費です。もともとアルバイトの人件費は変動費でしたが、人手不足になり、人材を抱えている必要が出てきたためほぼ固定費になっています。ただどの程度の売上を確保できるか分からない中、アルバイトを抱えることがリスクであるのも事実です。そうした背景を踏まえて、押さえておいてほしいサービスを紹介します。

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固定費化してしまった人件費を変動費にする方法

ここ数年、スポットワーカーの仲介サービスが伸びています。以前まで、アルバイトといったら求人媒体に広告を掲載して、応募を募っていました。しかし、人手不足の今、求人広告を出しても人が必ず採用できるとは限りません。実際、多くの飲食店で求人広告を出したものの一件も応募がこなかったというケースが増えています。採用を積極的に行う春先など、その傾向が特に強く、シフト組みに苦労するお店も少なくありません。

また、せっかく採用をしたのに、すぐに辞めてしまうという問題もあります。現在、空前の売り手市場です。アルバイトのスタッフたちは、その仕事を辞めても、すぐに次のアルバイトを見つけることができるからか、シフトに来ないで辞めてしまうことも多いです。

スポットワーカーの仲介サービスをうまく活用することで、こうした課題を一気に解決できることもできます。飲食店の場合、メニューや業態も違うので出勤し23時間で即戦力は難しいと考えていましたが、スポットワーカーの場合、能力や評価がポイント化されており、優秀な人材をスポットで確保することが可能です。こうしたサービスの中で、一番有名なのが「タイミー」です。TVコマーシャルも流しているので、聞いたことある人もいるでしょう。スポットワーカーの仲介サービスを活用すると、固定費となってしまったアルバイトの人件費を、変動費にすることができます。必要最小限のアルバイトだけ採用し、その他の人材については忙しさに合わせてスポットワーカーを活用したら、繁閑差に応じて人件費を調整することができるでしょう。

アルバイトスタッフが稼げなくなってしまうと辞めてしまうため、あまり忙しくないのにシフトに入れないといけないことがよくあります。また、アルバイトを採用すると、モチベーションが下がらないように親身なケアも必要ですが、スポットワーカーならマネジメントのストレスを抱えることもありません。創業期に、採用費やトレーニングの時間を掛けずお客様の方を向いて、その満足度の向上に注力できるメリットはかなり大きいです。

なお、仲介サービス会社によっては、スポットワークで働きに来た優秀なスタッフを、仲介手数料などを取らずに積極的に自店のアルバイトとして採用することを進めています。お店側はスタッフの実力を把握していて、スタッフ側はお店側の様子をあらかじめ知っているためミスマッチも起きません。優秀なスポットワーカーの引き抜きに関するマニュアルを用意している大手チェーンもあります。人手不足と、人件費の高騰が経営に大きな打撃を与えている今、こういったサービスの活用を前提とした店づくりをすることは、市場環境の変化に対する時代対応になるでしょう。

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