飲食店の開業準備: メニューと価格設定の最終決定
最適なメニューのラインアップ数とは
開業の際、オーナーが決めなければいけないことはたくさんあります。その中でも、特に難しいのがメニューの価格です。ロイヤルで「売価は経営」と先輩方から指導を受けました、
「メニューの価格は調理技術や楽しいお店の雰囲気、そういったものこそが価格を決める上で材料費と共に大切なもの」と教わりました。昨今、人件費や材料費、電気代など高騰が続き、最適な価格決める難しさも増しているのは事実です。それでは、どうすれば適切なメニュー価格を決めることができるのでしょうか。それを行うには、メニューづくりの基本から考えてみましょう。
そもそもお店で必要なメニュー数は、業種・業態や客単価によって様々です。調理技術や食材にこだわった専門店の場合は、それほどメニュー数は必要ありません。例えば、アッパーなイタリアンやフレンチレストランはシェフが提案するいくつかのコースメニューしかありません。高級なお寿司屋さんも同様です。大将の目利きで市場からその日仕入れた食材のおまかせコースのみを楽しみに来店されるお客様がたくさんいると思います。一方で、多くのお客様に間口を広げる場合は、ある程度のメニュー数は必要です。例えば、居酒屋やバルなどでは、メニュー数が多いと楽しみが増えて、その分、滞在時間も長くなり客単価も上がる傾向にあります。
個人店だと、店舗の客席は多くても30〜40席なので、メニュー数はなるべく絞った方が、食材ロスやムダな仕込み時間がなくなります。メニュー数は食材数を意識し、またピーク時に一つの加熱機器に集中しないことも工夫しながら40~50品目もあれば十分ではないでしょうか。居酒屋やバルの場合、定番メニューだけではなく旬の野菜や魚などの食材を使った、季節感のある、おすすめメニューが全メニューの中で10~15品目前後あれば来店毎に選ぶ楽しみが増し次回の来店に繋がります。
「このお店は〇〇」という看板メニューの必要性
メニューのラインアップを考えるとき、ぜひ看板メニューも併せてつくりましょう。「刺身ならこの店」「とんかつならあの店」といったように、特定のカテゴリーで最初に想起されるお店になれば、他店との差別化になるだけでなく、長く商売を続けられるお店になることができます。
看板メニューになるには条件があります。それは他店に無いお客様を引きつける価値がなければいけないということです。価値を作り出すのは、調理技術や手間暇や身近では手に入らない食材の料理になるでしょう。もっと具体的にいうと、素人ではできないプロならではの技術と手間暇をかけた料理や家庭ではなかなか手に入れるのが困難な食材を使った料理かのどちらかになります。プロの手間暇をかけた料理の場合だと、食材は比較的入手しやすいものになる一方で、特別な食材の場合は、旬や鮮度、地域限定の食材を生かした料理の提案メニューが多いようです。
看板メニューは、お店のコンセプトとも深く関わってきます。もしコンセプトをまだつくっていない場合は、「コンセプトの作り方」のコラムも参考にしながら看板メニューを考えてみてください。
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メインメニューの差別化の重要性
FLRコスト比率から売価を決める考え方
以上を踏まえて、値決めについて考えていきます。
大手チェーン店の場合、一つ一つの商品について細かなレシピ表があります。味付けに使う塩も数グラム単位で管理をして、原価として計算しています。しかし、個人でそこまで用意するのは難しいでしょう。また、看板メニューは価値がないといけないので、しっかりコスト(材料費+人件費)をかける必要があります。上記で価値をつくるには手間暇をかけるか、特別な食材を使う必要があるとお話しました。手間暇の場合、人件費をかけることになり、特別な食材の場合は仕入れにコストも含めた材料費になります。看板メニューは集客の武器になりますので、コスト(材料費+人件費)を掛けはじめて価値が生まれるともいえるでしょう。
こうした背景もあるので、一つ一つの料理の材料費を計算して価格を決めても、最適な値にはなりません。だからこそ、メニュー全体で原価をコントロールしながら価格を決めていく必要があります。そのとき役立つのが、FLRコスト比率という指標です。FはFood(原材料費)、LはLabor(人件費)、RはRent(家賃)を指していて、現在の経済環境では大変難しいのですが一般的な飲食店の場合、FLRコスト比率は70%だといわれています。
その上で利益が5~10%は残るように計算すると、原材料費はおおよそ30%前後の範囲が妥当な数字です。特別な食材を使った看板メニューなら原材料費を40%近くかけてお客様に楽しんでもらう一方で、よくオーダーされるサイドメニューの原材料費は20%くらいに抑えるなどして、メニューミックスで最適な原材料費になるよう出数のバランスを見ながら価格を決めていきましょう。
ただ原材料費や人件費以外にも、物件費(家賃)が上昇しているため、FLRコストのコントールは一時期よりも難しくなっているのは事実です。また、売上が上がらないと、ロスを含めたコスト比率も想定した範囲内で収まらず、苦しい経営を余儀なくされてしまいます。そのため、お客様に納得していただける価格改定を含めたメニューの見直しをタイムリーに行うことが大変重要です。
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最後の微調整はマーケットの価格を意識しながら
FLRコスト比率を踏まえて、値決めを行ったとしても、それが正解だとは限りません。自店では最適な価格でも、マーケットを見たときに、そうではないケースがあるからです。そこでライバル店なども視察しながら、最後の微調整を行うといいでしょう。近くのライバル店が「もつ煮込み」を380円で提供していて、自店では500円なら価格はもちろん、ポーションや見せ方、器などを工夫する必要があります。
また、営業をしていく中で、人気メニューと、さほど出数のよくないメニューが出てくるはずです。そこで定期的にABC分析を行い、メニューの見直しを実施しましょう。注意しないといけないのは、コスト(材料費+人件費)がかかっていて、売上にもあまり貢献していないメニューです。こうしたメニューは思い切って削ってしまうといいかもしれません。逆に、一つの食材から複数のメニューを作れたら食材ロスもなくなり、原価も低く抑えることができます。仕入れやスタンバイなどオペレーションもシンプルになり、お店としてメリットは大きいです。
「売価は経営」です。価格に正解はなく、常に調理やサービスも含め経営全体を考えながら知恵次第でいくらでもコスト(材料費+人件費)コントロールすることができます。ぜひ営業を行いながら、ブラッシュアップをし続けてください。
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※この記事は、ロイヤルホールディングスのOBであり過去に長年事業開発を担当されていた方にインタビューを行い作成いたしました。