営業時間内に必要な作業を終わらせるコツ
お店をオープンするとき、どの業務を何時に行って閉店を迎えるのかを、全て描き切るのは非常に難しいことです。しかし、一日のうちに行うべき業務を、あらかじめしっかりと設計できていないと、後々苦労することになります。
一番影響が大きいのが人材の獲得かもしれません。数年前まで残業をしてでも閉店作業を全て終わらせることは当たり前でしたが、現在、残業を前提とした業務設計は世の中から受け入れられないでしょう。当然のことながら、残業代を支払わず、スタッフの善意に頼った業務設計はもっての他です。売り手市場の中、残業に対する認識が甘いと、アルバイトを適切に採用できない可能性も高くなってしまうでしょう。現に、「定時退社」の条件で求人も探せるなど、求職者側のニーズも非常に伸びています。だからこそ、残業をさせず、いかに時間内に業務が終わるかを考えていくことが欠かせません。ぜひ営業時間の決め方のポイントを押さえて、その中でどのように業務を組み立てていくべきなのかを理解していきましょう。
営業時間の決め方のポイント
まず営業時間は、業種、業態を踏まえて、自店のターゲットを考慮して決めていきます。例えば、ビジネスマンをターゲットにした居酒屋ならディナータイム中心の営業に、お子さま連れをターゲットにしたカフェならランチ帯に力を入れた運営を行っていくことになるでしょう。近年では、朝から夜まで、さまざまなニーズに対応するオールデイダイニングも増えてきました。また、朝食の時間帯に、インバウンド客を取り込んでいるお店があるなど、多様化が進んでいます。自店はどんな業種・業態で、どういった人をターゲットにしていくのかで、おおよその営業時間は決めるでしょう。もしターゲットが不明確な場合、あらためてお店のコンセプトを見つめ直してください。
ただ、営業時間を決めるときに、外せないのがライバル店の存在です。近隣にある居酒屋が15時から24時まで営業していて、自店が17時から24時の場合、早い時間帯のお客様はもれなく取られてしまうでしょう。そうなると17時からの営業開始は得策ではありません。競争に負けないように、ライバル店の動向はしっかりと注視をしましょう。
とはいえ、人材がいないと営業時間を早めたり、伸ばしたりすることはできません。その意味で、人員の充足感も営業時間を決める重要な決め手の一つです。そもそも人手が足りなければ営業はできません。コロナ禍以降は、人手不足の影響もあり、深夜営業をやめるなど、営業時間を短くする飲食店が多くなりました。また、人手が足りないがために、臨時休業をするケースも珍しくなくなっています。一方で、人件費が高騰しているため、無計画に何人もシフトに入らせることはできません。損益分岐点から、各時間帯の最適な人員数が決まってきます。そこから現実的な営業時間が決まってくるでしょう。
自店のターゲット、ライバル店、人手の充足感といった要素から、最終的な営業時間が確定してくると思います。
残業をさせない業務の組み立て方
一日にやるべき業務を設計するとき、締め作業から逆算するとつくりやすいです。目安として、ラストオーダー後の締め作業は、全体の2、3割にとどめ、その他の7、8割の作業については営業時間内に適時行っていきます。ただ営業時間内にやる作業は、当たり前ではありますが、お客様の迷惑にならないものを優先しましょう。お客様が座っているテーブルではないからとラストオーダー前に掃除を始めたものの、その姿が退席を急かしているように感じると、クレームにつながるといったケースもあります。どんな作業から締め作業を始めるかは十分に注意しなければなりません。まずはお店でやるべき作業を整理して、どれをどのタイミングで行っていくか考えてみてください。
一日にやるべき業務を設計するとき、優先すべきなのはQSC(Quality(提供するメニューの品質)、Service(接客の品質)、Cleanliness(お店の清潔さ))をどのように維持していくかということです。特にクレンリネスはコロナ禍を契機に、その重要性が高まっています。そのレベルをいかに維持するかが、お客様に選ばれるお店につながるので、とても重要です。例えば、トイレ掃除やテーブル・椅子の拭き上あげ、エントランスの清掃は一時間に一回は行うといったルールを決めて、全員で取り組んできましょう。
そのとき重要になるのが、作業の基準です。どのくらいのレベルで作業を行うべきかを決めて、それを守り続けることが繁盛店への道につながります。そうした基準がないと、個々のパフォーマンスに作業のクオリティが左右されて、お店のQSCにもばらつきが生まれてしまうでしょう。また、基準がないと、それぞれのスタッフが何を目標にして作業を行っていけばいいのかも分かりません。人によって基準が違うと、新人が入ってきたとき同じことをやって昨日は大丈夫だったのに、今日は怒られたといったことも起こってしまいます。それではモチベーションが上がらず、最終的には離職してしまうということにも繋がりかねません。最近では、動画コンテンツを手軽の活用できる教育ツールも登場しています。そうしたテクノロジーも活用しながら、マニュアルの作成と、その徹底を早い段階から行っていくのがいいでしょう。
効率的な作業を組み立てる工夫
締め作業の目的は、開業した当時の状態に戻すことです。閉店時間後に、その状態に戻すことができたらベストかもしれませんが、残業をさせない前提で業務を組み立てていくと無理があります。一日の営業中のいずれかの時間で、開業時の状態に戻せればいいと柔軟な考えを持って、業務を組み立てていくといいでしょう。
例えば、閉店後、お皿は全てきれいに洗わないといけないと思うかも多いと思います。しかし、ラストオーダー時に大量に注文が入ったり、多くのお客様が閉店時間ぎりぎりまでいたりすると、終業時間までに洗いきれないこともあるでしょう。お皿を洗うことに集中して、他の業務に手がつけられなかったというケースも多いです。そこでお店によっては、閉店時間までに片付けられなかった食器についてはつけ置きをしておき、開店前に洗うようにしています。
また、意外なところではレジ締めです。これまでレジ締めといえば、閉店時間後、一日の最後に行うことが当たり前でした。しかし、終業時間直前に行うと焦りが生まれて、ミスが出やすくなります。その結果、また計算をし直さなければならなくなり、さらに時間が掛かってしまうことも珍しくありません。そこでゆっくりとできる朝に行い、レジ締めを行う飲食店も多いです。また、以前のようないわゆるガチャレジではなく、タブレット型のPOSレジを活用すると、レジ締めが数分で終わるとあって、導入する飲食店が増えています。レジ締めは締め作業の大きな負担になることが多いので、こうしたレジの導入を検討してみるのも一つの手ではないでしょうか。
そして大胆な例だと、ユニフォームを廃止した飲食店もあります。着替えの時間も業務となり、時給が発生するため、その時間を節約できるように始まった施策ですが、スタッフ側からも好きな格好で働けると非常に好評です。人手不足や働き方改革とも密接に関わってくる作業の設計ですが、オーナーとしても頭を柔らかくして、時代にあったものとなるように取り組んでみてはいかがでしょうか。