内装制限を知らないと大変!消防法・建築基準法の違いや罰則、緩和策も解説
飲食店を開業する上で、内装は重要な課題の一つです。和風、モダンなど、頭の中には既に理想飲食店を開業する上で、内装は重要な課題の一つです。和風、モダンなど、頭の中には既に理想の内装イメージが広がっているかもしれません。しかし、飲食店の内装には、消防法や建築基準法など、法律による「内装制限」が存在します。そのため、思い描いた通りの内装を実現するためには、設備の追加や使用する建材の変更が必要となる場合があります。
この記事では、内装制限の内容、対象となる建築物、緩和措置などについて詳しく解説します。
内装制限とは
内装制限とは、火災の拡大や煙の発生を抑制し、避難や救助活動を円滑に行うための内装施工に関する法的な規制です。
過去に、建築物の火災で発生した煙や一酸化炭素による人命被害が多発したことを受け、飲食店を含む、不特定多数の人が出入りする建物には、火災に備えた内装制限が設けられました。
内装制限は、建物内に使用する部材を、燃えにくいものや煙が発生しにくいものに制限することで、万が一火災が発生した場合でも被害を最小限に抑えることを目的としています。
内装制限では、使用される建材を燃えにくさによって4つに分類しています。
- 不燃材料:コンクリート、鉄、モルタルなど
- 準不燃材料:厚さ9mm以上の石膏ボード、厚さ30mm以上の木毛セメント板など
- 難燃材料:厚さ7mm以上の石膏ボード、厚さ5.5mm以上の難燃合板、難燃プラスチックなど
- その他:上記以外の材料(木材、紙、プラスチックなど)
火災発生リスクの高い場所や避難経路などには、コンクリートや鉄などの不燃材料の使用が義務付けられています。ただし、内装制限の範囲外であれば木材やプラスチックなども使用可能です。
例えば、木目を活かした内装にしたいと考えていても、内装制限によって木材を使用できない場合があるので注意が必要です。
消防法と建築基準法の内装制限の違い
内装を設計する際には、消防法と建築基準法という2つの法律を遵守する必要があります。これらの法律は、それぞれ異なる目的と内容で規定されており、いずれも遵守しなければなりません。
消防法と建築基準法は、それぞれ異なる目的と適用範囲に基づいて、建物内の廊下、階段、壁などに関する規定を設けています。これらの法律の違いを理解することで、内装設計において、注意すべき点が明確になります。安全な店舗設計を行うためには、消防法と建築基準法について、詳しく理解することが不可欠です。
消防法
消防法は、建築基準法と比べて特に以下の点を重視して定められています。
- 火災の予防
- 火災の早期発見、通報
- 初期消火活動
消防法では、何よりもまず、火災を未然に防ぐための対策が求められています。
また、万が一火災が発生した場合には、消防機関への迅速な通報、消火器やスプリンクラーなどを用いた初期消火活動を、迅速かつ適切に行えるような体制を整えることが義務付けられています。このように、消防法では、建物そのものの強度よりも火災に対する予防や発生時の迅速な対応に重点が置かれています。
建築基準法
建築基準法では、火災の発見や消火よりも、火災が発生しても燃え広がりにくい建物の構造や、安全な避難経路の確保に重点が置かれています。
もし建物が火災に対して脆弱な構造だと、屋内にいる人が避難する前に、建物が倒壊したり、避難経路が塞がれたりして、被害が拡大する恐れがあります。建築基準法では、そのような事態を防ぐために、建物全体を火災や、その他の災害に対して、強固な構造とすることを義務付けています。
内装制限の対象となる建築物
内装制限は、全ての建築物に適用されるわけではありません。飲食店以外にも、病院、学校、映画館など、法令で指定された建物が内装制限の対象となります。私たちの身の回りにある多くの建物は内装制限が適用されており、既に法令に基づいて施工された建物を利用したことがあるでしょう。
内装制限の対象となる建築物の中でも、制限の内容は異なります。そのため、設計する建物がどの制限に該当するのかを正確に把握することが重要です。ここからは、建築基準法における内装制限について詳しく解説します。
特殊建築物
特殊建築物とは、不特定多数の人が利用する多くの建物が該当します。特殊建築物の具体例は以下の通りです。
建築物の種類 | 条件 |
劇場、映画館など | 客席の床面積の合計が100平方メートル以上 |
病院やホテル、共同住宅、福祉施設など | 床面積の合計が200平方メートル以上 |
百貨店や飲食店、遊技場、公衆浴場など | 床面積の合計が200平方メートル以上 |
スタジオ、車庫、修理工場など | 床面積に関わらずすべて |
地下に劇場や飲食店、遊技場などの居室がある建築物 | 床面積に関わらずすべて |
私たちの普段の生活で利用する、多くの建物が特殊建築物に該当すると考えて良いでしょう。百貨店、飲食店、病院、福祉施設などは多くの人が利用するため、ひとたび火災が発生すると甚大な被害が発生する恐れがあります。万が一、火災が発生した場合に大きな被害が想定される場所では、多くの人が安全に避難できるよう事前の対策が不可欠です。
このような場所では、内装制限によって火災への備えが義務付けられています。
大規模建築物
大規模建築物とは、飲食店や劇場などの建物の用途に関わらず、一定規模以上の建物を指します。大規模建築物に該当する基準は以下の通りです。
- 3階建て以上で延べ面積が500平方メートルを超える
- 2階建てで延べ面積が1,000平方メートルを超える
- 1階建てで延べ面積が3,000平方メートルを超える
建物が大規模であるほど、火災が発生した場合の被害の大きさや周辺への延焼リスクも高まります。
特殊建築物のように、特定の用途として建築されない場合でも、建物全体の規模が一定以上になると内装制限の対象となります。
火気使用室
火気使用室とは、調理室や共同浴場のボイラー室など、コンロやかまどなどの火を使用する設備が設置されている部屋を指します。
火を使用する部屋は、他の部屋と比較して火災の発生リスクが高く、特に油を取り扱う場合には火災が拡大する危険性が高いため、細心の注意が必要です。建築基準法における火気使用室に該当する条件は以下の通りです。
- 住宅以外の建築物で、火を使用する設備や器具が設けられた全ての部屋
- 住宅で、火を使用する設備や器具が設けられた、最上階以外の全ての部屋
これらの条件に該当する部屋は、内装制限に基づき、内装の仕上げ材を不燃材料または、準不燃材料とする必要があります。
無窓の居室
出入り口以外に、開放できる窓がない部屋も内装制限の対象となる場合があります。火災発生時に出入り口が火災や建物の倒壊などによって塞がれてしまうと、窓からの避難や救助が必要となる場合があります。
しかし、避難や救助に利用できる窓がないと、避難や救助活動に支障をきたす恐れがあります。そのため、窓がない居室は内装制限の対象となります。窓がない居室における主な対象は以下の通りです。
- 床面積が50平方メートル以上で、戸や窓などの開口部の面積の合計が床面積の50分の1未満(開口部の条件は天井から80cm以内の窓などの開口部で、天井高さ6mを超える居室は除く)
- 温度や湿度の調整が必要となる作業室
飲食店では、窓のない倉庫などがこれに該当する可能性があるため注意が必要です。

内装制限の違反に対する罰則

内装制限に違反した場合、罰則が科せられます。罰則の対象となると、罰金や懲役刑が科されるだけでなく、社会的信用を失墜する恐れがあります。信用を失うことは、今後の事業継続にも大きな影響を及ぼすでしょう。
内装制限は、火災に対する備えとして最も重要です。しかし、罰則の対象となることを回避し、事業を継続させるためにも、内装制限は必ず遵守しなければなりません。
罰則の内容
内装制限を遵守せずに営業を続けた場合、罰則が適用されます。個人の場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科され、法人の場合は1億円以下の罰金が科されます。罰金の額は非常に高額です。そのため、万が一、罰則の対象となった場合には、経営に大きな損害を与えることになるため、注意が必要です。
罰則の対象者
罰則の対象となるのは、建物を設計した建築士と経営者の両方です。
建築士が内装制限の基準を遵守せずに設計した場合、建築士が罰則の対象となります。さらに、内装制限が遵守されていないことを知りながら営業を続けた場合、経営者も罰則の対象となるため、注意が必要です。
建築士が設計したからといって、経営者の責任が免除されるわけではありません。そのため、建築士に全てを任せきりにするのではなく、経営者自身も内装制限について理解し、設計内容を把握しておくことが重要です。内装設計の際には、建築士と綿密に協議し、法令を遵守した設計となっているかしっかりと確認しましょう。
内装制限の緩和策
内装制限には、一定の条件を満たすことで制限を緩和できる措置が設けられています。全て、内装制限に従って内装を設計すると、理想とする内装を実現できない場合があります。そのような場合には、緩和措置を適用できないか検討してみましょう。ここでは、内装制限の緩和措置について解説します。
天井の高さを6m以上にする
火災発生時に発生する煙は、まず天井に向かって上昇し、天井付近に溜まった後、徐々に下降してきます。天井が高いと、天井付近に溜まった煙が、人のいる高さまで下降してくるまでに時間がかかります。その間に、避難する時間を確保しやすくなります。そのため、無窓居室の場合、天井高さを6m以上にすることで、内装制限が適用されなくなります。
スプリンクラーと排煙設備を設置する
スプリンクラー設備は、火災が発生した際に、自動的に天井や壁から水を放水し、初期消火を行う設備です。また、排煙設備は火災発生時に室内の煙を外部に排出する設備です。
自動式のスプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備、および排煙設備を設置することで、火災による被害を最小限に抑える効果が期待できます。これらの設備を設置することで、内装制限の緩和措置を受けられます。スプリンクラーや排煙設備は、内装制限の緩和のためだけでなく、火災発生時の初期消火や被害拡大防止のためにも非常に有効です。そのため、設置が可能な場合には積極的に導入することをおすすめします。
天井に準不燃以上の材料を使用する
天井と壁に、難燃材料以上の使用が義務付けられている場合でも、天井に準不燃材料を使用することで、壁に、難燃材料を使用できるようになります。
準不燃材料とは、厚さ9mm以上の石膏ボード、厚さ15mm以上の木毛セメント板などが該当します。天井高さを十分に確保できない場合でも、天井を準不燃材料とすることで、壁に木材を使用できる可能性があります。そのため、建築の条件に合わせて検討することをおすすめします。
梁や柱の面積を床面積の1/10以内にする
内装のデザインによっては、梁や柱を意匠として見せることで、おしゃれな空間を演出できる場合があります。
特に、和風の内装の場合、柱や梁は空間の美しさを引き立てる要素となります。そのため、デザインに積極的に取り入れたいと考える方も多いでしょう。
しかし、梁や柱は、ひとたび火災が発生すると、建物全体への被害を大きくする恐れがあります。そのため、内装制限の対象となっています。しかし、梁や柱の見え掛かり面積を、壁または天井の面積の10分の1以下とすることで内装制限の緩和措置を受けられます。
ダイニングキッチンに垂れ壁を設置する
飲食店の中には、客席と厨房が壁などで仕切られず、隣接している店舗もあります。厨房から客席が見渡せることで、調理スタッフがお客様の様子を確認しやすく、料理を最適なタイミングで提供できるなどのメリットがあります。しかし、この場合、火を使用する厨房で火災が発生すると客席にも被害が及ぶ危険性が高まります。そのため、内装制限がより厳しく適用される可能性があります。
このような場合には、客席と厨房の間に、不燃材料で作られた、垂れ壁(防煙壁)を設置することで、客席側の内装制限を緩和できる場合があります。
内装に木材を使う場合の注意点と緩和策
和風やモダンなデザインを検討し、内装に木材を使用したいと考えた場合、火災への対策が特に重要となります。
内装に木材を使用する場合は、緩和措置を適用することで、内装制限を回避できる場合があります。しかし、緩和措置である、天井高さを高くすることやスプリンクラー設備を設置することだけを重視すべきではありません。火災が発生した場合の延焼防止という、本来の目的を常に念頭に置く必要があります。
内装制限の緩和措置を適用する場合でも、火災による被害を防止し基本的な安全性を確保することを最優先に考える必要があります。その上で、内装制限とデザイン性を両立できるよう設計することが重要です。
まとめ
内装制限とは、火災発生時の被害を最小限に抑えるために、建物の内装に使用できる材料を制限し、火災の拡大や煙の発生を抑制することを目的としています。内装制限は法令で定められたものであり、必ず遵守しなければなりません。また、内装制限に違反した場合、罰則が科せられ、営業停止などの行政処分を受ける可能性があります。
しかし、制限によって、思い通りの内装を実現できない場合もあります。そのような場合は、内装制限の緩和措置を活用することも、一つの有効な手段です。
法令で定められた内装制限を遵守しながら理想の内装を実現するためには、内装制限の内容と緩和措置について正しく理解し設計を進めていくことが重要です。
この記事を監修した人

木下洋平
経営コンサルタント
中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント、日商簿記1級を保有する。株式会社リクルートなどの勤務を経て現職。