飲食店の開業資金の融資を受けるには?必要な資金の目安・資金調達方法を解説

飲食店の開業には、一般的に1,000万円以上の費用がかかります。

自己資金で賄える場合は問題ありませんが、これだけの資金を準備するには時間がかかってしまうでしょう。そのため、多くの人が金融機関から融資を受けて開業しています。

ここでは、飲食店開業に必要な資金の目安と調達方法を紹介します。開業資金の調達に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

飲食店開業に必要な資金の目安

飲食店の開業には、一般的に1,000万円以上の資金が必要になります。2023年の日本政策金融公庫の調査によると、開業費用の平均は約1,027万円、中央値は550万円です。

開業費用の分布は以下のとおりです。

  • 250万円未満:20.2%
  • 250~500万円未満:23.6%
  • 500~1,000万円未満:28.4%
  • 1,000~2,000円未満:18.8%
  • 2,000円以上:9.0%

このデータには不動産賃貸業を除くすべての業種が含まれており、飲食店以外の開業も対象となっています。業種によって開業に必要な費用は異なりますが、飲食店は実店舗、内装、設備、器具、什器など多くの物が必要なため、費用が高額になりがちです。そのため、必要な費用や届け出を把握し、計画的に準備を進めることが重要です。

飲食店の開業資金の融資を受けるには?

融資は、国や地方自治体、金融機関などの制度を利用して資金を調達する方法です。

融資を受けるためには、適用可能な融資制度を把握し、必要な書類を準備して面談で審査を受ける必要があります。返済の据え置き期間を設けることが出来る場合があるものの、融資が実行されると、原則として翌月から返済が始まります。

飲食店開業資金の融資には、創業融資や制度融資を利用すると資金を調達しやすくなります。

創業融資は、事業の初期段階にある企業に対して行われる融資であり、日本政策金融公庫が提供する制度がよく知られています。新規事業を始める方が比較的融資を受けやすい制度です。

制度融資は、地方自治体や市区町村が提供している利用しやすい融資です。融資制度の仕組みや金利には違いがあるため、詳細を確認し、自分に適した制度を選びましょう。

自己資金がなくても飲食店開業資金の融資を受けられる?

結論としては、自己資金がないと融資を受けるのは難しいでしょう。なぜなら、金融機関は自己資金がない状況を、開業準備が整っていないと判断する可能性があるからです。また、融資を受ける条件に自己資金の基準を設定している金融機関もあります。

2023年の日本政策金融公庫の調査によると、開業時の自己資金は平均約280万円で、資金調達額の24%に相当します。2022年の調査では自己資金は約271万円で、資金調達額の21%に相当しました。[6] 過去の事例から見ても、自己資金は開業に必要な総資金の2〜3割程度が求められるでしょう。

自己資金は、融資の可否を左右する重要な要素の一つです。また、自己資金があれば融資の返済額も減るため、少しずつでも資金を貯めていくことが重要です。

資金調達方法の種類

資金調達の方法には、さまざまな選択肢があります。資金調達の方法を把握することが重要です。

日本政策金融公庫の融資

日本政策金融公庫は国民生活の向上を目的とした政策金融機関で、国が株式の100%を保有しています。日本政策金融公庫は、国民生活事業・農林水産事業・中小企業事業を通じて、多くの人々に融資を提供しています。

新規で事業を始める方向けの創業融資もあります。事業開始直後は実績が乏しく、融資を受けられる金融機関は限られます。日本政策金融公庫は、資金調達が難しい創業期に新規事業者や、事業開始後2期未満の方を支援する融資を行っています。 無担保・無保証人で、利率も定められた利率から0.65%低減される場合があり、新規事業者にとって負担が少ないのが特徴です。 さらに、返済期間が長めに設定されているため、返済額の負担が軽減されます。

信用保証協会の保証付き融資(制度融資)

この融資は、地方自治体・金融機関・信用保証協会が連携して提供しています。金利・開業地域・納税実績などの条件が細かく設定されており、複数の機関が関与するため、資金が入金されるまでに時間がかかる傾向があります。

信用保証協会は、公的な機関です。信用保証料を支払うことで、返済が滞った場合でも信用保証協会が金融機関に代わって返済してくれるのが特徴です。その結果、信用保証協会を利用した融資は、審査に通りやすくなります。返済不能となった場合、金融機関への返済義務は免除されます。しかし信用保証協会への返済は継続します。完全に返済義務がなくなるわけではないため、注意が必要です。

プロパー融資

プロパー融資とは、金融機関からの直接融資を指します。これは信用保証協会が関与しない融資で、上記の保証付き融資とは異なります。返済不能となった場合、銀行が損失を被ることになります。そのため、保証付き融資に比べて審査は厳しい傾向があります。プロパー融資を受けられる事業者は、金融機関から高い信用を得ています。この信用により、低い金利で融資を受けられることがプロパー融資の特徴です。

助成金・補助金

助成金と補助金は、どちらも国や地方公共団体から支給される資金です。ただし、誰でも受け取れるわけではなく、一定の資格、審査、申請が求められます。助成金は要件を満たせば受給できる可能性が高い一方で、補助金は件数や金額が制限されていることが多く、必ずしも受給できるわけではありません。さらに、補助金は後払いであるため、事前に資金を準備しておく必要があります。

日本政策金融公庫から開業資金の融資を受ける流れ

融資を受けるプロセスは、以下のステップに沿って進められます。

  1. 相談
  2. 必要な書類の準備
  3. 申し込み
  4. 面談
  5. 融資
  6. 返済

申し込みから融資が決定するまでの期間は1ヵ月程度です。条件によっては1ヵ月以上かかる場合もあるため、余裕を持って手続きを進めることが重要です。

相談

相談は、電話・支店窓口・オンラインで受け付けています。

事業資金についての質問や手続きの確認は、専用ダイヤルに電話すればすぐに対応してもらえます。電話は平日の9時から19時まで受け付けているので、この時間に連絡してください。また、支店やオンラインでの相談は、事前に予約が必要です。全国に153店舗ある支店の中から、近くの店舗を探して訪問してみてください。平日が忙しいという方には、東京・名古屋・大阪にあるビジネスサポートプラザが便利です。こちらは土日祝日も対応しています。

予約は電話かオンラインで可能ですが、希望する日時に合わせて早めに手続きを済ませておくようにしましょう。

必要な書類の準備

個人または法人、そして初めて融資を受ける場合で、必要な書類は異なります。以下は、初めて融資を受ける方に必要な書類です。

  • 創業計画書(新規事業を始める方)
  • 運転免許証(両面)またはパスポート
  • 許認可証の写し
  • 設備資金の見積書(設備購入を伴う場合)
  • 借入申込書

運転免許証(両面)またはパスポートは、顔写真と現住所が記載されたページが必要です。すでに事業を行い、申告をしている方は、確定申告書または申告決算書が必要となります。また、法人の場合は、登記簿謄本または履歴事項全部証明書が必要です。事前に必要書類を確認しておくと、融資手続きがスムーズに進みます。

申し込み

申し込みは、支店・オンライン・郵送で行えます。

オンラインで申し込む場合は、日本政策金融公庫のホームページから書類をダウンロードし、アップロードする必要があります。オンラインでの申し込みに不安がある方は、近くの支店で申し込むと、その場で疑問点を解消しながら手続きを進めることができ、スムーズに申し込みが完了します。

面談

借入申込書を提出すると、担当者から面談の連絡があります。

面談では、創業計画書に基づいて、担当者から事業計画に関する質問を受けます。そのため、口頭で説明できるように準備が必要です。創業計画書は、作成時から完成度の高いものにしておくと、説明がスムーズになります。創業計画書の主な内容は以下のとおりです。

  1. 創業の動機
  2. 経営者の略歴
  3. 取扱商品やサービス
  4. 取引先や取引関係
  5. 従業員
  6. お借入の状況
  7. 必要な資金と調達方法
  8. 事業の見通し(月平均)
  9. 自由記述欄

面談前に質問を想定しておくことで、落ち着いて回答できます。店舗や工場がある場合、担当者が事業状況を確認するために訪問することもあります。

融資

審査に通過すると、契約に必要な手続きが開始されます。融資契約に必要な契約書や借用証書が送付されるので、必要事項を記入し、日本政策金融公庫に返送してください。記入漏れやミスがなければ、契約が完了します。

基本的には書類が日本政策金融公庫に届いてから3営業日以内に、金融機関の口座に送金されます。

返済

返済は、返済期間内に分割して行われます。返済方法には、元金均等返済と元利均等返済の2つがあります。

元金均等返済は、返済期間中の元金を一定額ずつ返済する方法です。元金は融資額を指し、これに利息が加わって総返済額になります。毎月の利息は、その時点での残高に金利をかけた額で、元金均等返済では返済初期に返済額が多くなります。返済が進むにつれて返済額が減少するのが元金均等返済の特徴です。

元利均等返済は、利率が一定であれば毎月の返済額が同額となる方法です。毎月同額を返済するため、返済計画が立てやすくなります。元金均等返済は返済開始時に返済額が高い分、元利均等返済よりも元金の減りが早く、同じ借入期間であれば総返済額が少なくなります。

事業資金の返済は、元金均等返済が原則です。元利均等返済を希望する場合は、可能かどうかを日本政策金融公庫の担当者に相談しましょう。

飲食店の開業資金を抑えるポイント

飲食店の開業には、店舗・調理設備・什器・人件費など、多額の初期費用が必要です。これらの初期費用を抑えることで、融資の審査が通りやすくなり、返済額も軽減できます。

以下に、初期費用を抑える具体的な方法を紹介します。

居抜き物件を検討する

居抜き物件を利用すれば、内装工事や設備の費用を抑えられるため、開業資金を削減したい方におすすめです。

居抜き物件は、前の借主が使用していた設備や内装が残っているため、新たな設備購入や内装工事の費用を大幅に削減できます。工事が不要な物件であれば、準備が整い次第、早期に開業できます。さらに、初期費用を抑えることで開業資金を早期に回収し、新たな設備や人件費に資金をまわすことも可能です。

ただし、物件や設備の状態によっては修理・撤去・新たな工事が必要になる場合もあるため、事前に状態を確認することが重要です。また、前の借主から内装や設備を購入する際には、造作譲渡料がかかります。無料の場合もあれば500万円以上かかる場合もあるため、事前に確認してから物件を選びましょう。

間借り営業・キッチンカーでの営業を検討する

開業資金を抑える方法として、間借り営業やキッチンカーでの営業があります。

間借りとは、既存のお店が営業していない時間や使っていないスペースを借りて出店する方法で、実店舗を建てる必要がありません。キッチンカーは、実店舗に比べて初期費用を安く抑えられる方法の一つです。新車のキッチンカーは250〜600万円ほどかかりますが、中古車やレンタルも利用可能で、開業資金を抑えたい方にはおすすめです。ただし、ガソリン代・自動車保険料・車検料・出店料・食品衛生責任者の受講料などの費用が別途かかります。キッチンカー以外の費用も考慮して検討してください。

中古の什器・設備を購入する

飲食店の開業には、コンロ・冷蔵庫・調理器具・什器など、購入すべき設備が多くあります。そこで、これらの設備は中古品を購入して開業資金を抑えることをおすすめします。ただし、中古品は購入後に動かなくなる・壊れるなどのリスクがあるため、購入時に動作や保証内容をしっかり確認しておきましょう。

まとめ

飲食店開業に必要な資金の目安と調達方法について解説しました。

飲食店の開業には、店舗・調理設備・什器・人件費など、多くの費用がかかります。これらの費用を賄うために、新規開業者向けの融資制度などを利用して金融機関から融資を受けることが一般的です。融資を受けると、当然返済義務も生じます。自己資金を貯めたり、居抜き物件を利用したりするなど、開業資金を抑える工夫をすることで返済の負担を軽減できないか検討してみましょう。 補助金や助成金、お住まいの自治体独自の施策などがあるかもしれないので、飲食店の開業を検討している方は、まず金融機関や地方自治体に相談してみるのもおすすめの方法です。

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この記事を監修した人


木下洋平

木下洋平

経営コンサルタント
中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント、日商簿記1級を保有する。株式会社リクルートなどの勤務を経て現職。