単一業態で成長を遂げた3社の「アフターコロナ」

「鳥貴族」と「串カツの田中」、「肉汁餃子のダンダダン」は、創業以来単一業態で成長を遂げてきた居酒屋チェーンです。いずれも新型コロナウイルス禍では、大幅な減収と赤字決算に陥りました。総合業態の居酒屋大手が「コロナ後」も業績不振に苦しむ中、これらの3社は早期に回復しました。今期は売上高と営業利益が過去最高またはそれに近い数字を記録しそうです。

単一業態は、メイン食材の大量仕入れによってコストが抑えられ、また調理スタッフが短期間で技術を習得できるなどの強みをもちます。一方、同一エリアでの多店舗展開が難しいことや、顧客に飽きられるリスクといった弱点もあります。この弱点は、店舗数が増えて売上規模が増大するほど大きなリスクとなるのです。 そうしたリスクや居酒屋市場の縮小への危機感から、3社とも以前から対応策を練り、準備を進めてきました。新型コロナウイルスの感染拡大が突然起こり、一部の施策の実施が見送られました。しかしコロナ禍のさなかに各社が打ち出した新機軸の多くは、アフターコロナを見据えたものです。コロナ禍が背中を押した部分があるかもしれません。

M&Aで1000店舗を突破した「鳥貴族HD」

2023年10月、鳥貴族ホールディングスは、2024年5月に社名を「エターナルホスピタリティグループ」に変更すると発表しました。社名を英語に変更したのは、海外市場への進出を見据えているためです。同社は2023年4月、米国ロサンゼルスに100%子会社の現地法人を設立。コロナ禍で設立を延ばしていましたが、2024年中に直営で3店舗を出店する計画。また東南アジアでの出店も検討中だといいます。国内の店舗で使う食材はすべて国産ですが、海外では新たな調達網を構築する方針です。

一方、国内では、コロナ禍の中に新たに2つの店舗ブランドがスタートしました。一つは、新業態のチキンバーガー専門店「トリキバーガー」です。大倉忠司社長がコロナ禍以前から構想を練り、同社の第2の柱として期待を寄せた業態です。国内外で1000店舗を目指していますが、2021年8月にオープンした1号店の東京大井町店、翌年3月オープンの渋谷井の頭通り店(2023年11月閉店)ともに売上げが振るわず、現在ビジネスモデルを見直しています。現在は京都市伏見区の店舗とともに、東西1号店の2店舗のみです。シグネチャーメニューのトリキバーガーが390円と、チキンにしては割高感なのがネックだという声も。とはいえ、アメリカではチキンバーガーの人気が高く、高単価でも問題ないとされており、新業態への期待は依然として高いようです。

もうひとつの新たな店舗ブランドは、M&Aでグループに加わった「やきとり大吉」(以下、大吉)です。鳥貴族HDは2023年1月に、大吉をフランチャイズ展開するダイキチシステム(サントリーホールディングの子会社)の株式を100%取得し、子会社化しました。鳥貴族と大吉の店舗数を合わせると1134店舗(2024年4月末時点)で、大倉社長がこだわる「1000店舗規模」が実現しました。しかも両者の主な立地は鳥貴族の繁華街や駅前に対し、大吉は住宅地や郊外で、自ずと客層も重なる部分が少なく、すみ分けが可能です。

大倉社長は1000店舗に強いこだわり持っています。これは、「美味しくて安い」という最大の強みを実現するための最も効果的な方法がスケールメリットだからです。すでに居酒屋業態最多の店舗数を誇っていた鳥貴族が、さらにスケールアップしました。沈滞する居酒屋市場に、変化の兆しが見え始めています。

ランチ強化で客層拡大を図る「ダンダダン」

2020年7月1日、NATTY SWANKY(東京・新宿)は「肉汁餃子製作所ダンダダン酒場」の店舗ブランド名から「酒場」を削除し、「肉汁餃子のダンダダン」に変更しました。コロナによる1回目の緊急事態宣言が全面解除されてから、約2か月後のことです。

2011年1月に1号店がオープンしたダンダダン酒場は、餃子をメインにした居酒屋という、それまで外食市場になかった業態を10年近くかけて一般化させました。その店舗名から「酒場」を消したのは、顧客層を拡大するためです。これまでは、「酒場」という言葉がファミリー層や飲酒しない人々を遠ざけていたのではないか考えたのです。店舗ブランド名を変えてからは、従来どおり酒場としての機能を残しながら、ランチ需要や食事需要、中食需要など、多様化するお客のライフスタイルに合わせた店づくりへの挑戦を始めました。

その一環として、2024年4月にランチメニューをリニューアルしました。従来のランチは肉汁焼餃子、チャーシュー、麻婆豆腐など複数の定食メニューを提供していましたが、リニューアルによって看板メニューの「肉汁焼餃子」を使った「究極の餃子定食」(1000円)だけに絞ったのです(ちなみに、監修は昨年一躍時の人となった鳥羽周作シェフ)。なかでも研究を重ね、1年以上かけてつくり上げた肉汁焼餃子は、ご飯のおかずはもちろん、お酒のおつまみにも合うようにつくられています。ほかにご飯が進む、ほどよい辛さの練りタラコや、さっぱりした春雨サラダの小鉢を足すなど、1食に絞りながら「ランチ強化」と言える充実したリニューアルとなっています。

ダンダダンのNATTY SWANKYが「アフターコロナ」を見据えて行ったもう一つの施策が、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進です。コロナ禍の中の2020年10月に、アフターコロナに向けた店舗のデジタルトランスフォーメーション(DX)の準備がスタートしました。同社の井石裕二社長はこう説明しました。

「一部店舗で予約システム導入と本店でのテイクアウト予約システムを実験的に導入した結果、情報の一元管理により店舗スタッフの手間が削減、スタッフはお客様とのやりとりに集中することで顧客満足度向上の取り組みを進めることができました」(同社サイトより)。

また今後について「これらのサービスを幅広く導入することで、人でなければ成しえないサービスと、省人化・自動化してもお客様にご満足いただける作業とを切り分け、業務効率化、コスト削減、売上向上、顧客満足度の向上を視野に入れた我々ならではの店舗DXを実現していきたいと考えています」と語っています。DX導入の目的のひとつが、人的サービスの強化による顧客満足度の向上であるという考えは、特に外食企業にとって大変重要なものだといえます。

「串カツ田中」は第2、第3の業態を開発

全国に318店舗(2024年1月時点、FC店含む)を展開する串カツ専門店チェーンの串カツ田中。風変わりな店舗ブランド名と、創業7年で東証マザーズ上場(2016年9月)という急成長ぶりで、一躍その名が広まりました。

創業者で代表取締役社長だった貫啓二氏が、代表権を持たない取締役会長に退いたのは2022年6月のことです。新型コロナウイルスの感染者数が減少傾向にあったときです。代わって代表取締役社長CEOに就任したのが、CFOとして同社の株式上場をけん引した取締役の坂本壽男氏。同氏は会社勤務や公認会計士の経歴を経て2015年2月に串カツ田中へ入社。代表取締役社長CEO就任は、貫氏からの要請によるものでした。「目標の1000店に成長させるには、経営や金融の専門的な知識が必要」の言葉に就任を決めたそうです。

串カツ田中はコロナ禍の2020年9月、横浜市港北区に「鳥と卵の専門店 鳥玉」の関東1号店をオープンしました。鳥玉は平飼い鶏の生まれたての新鮮な卵にこだわり、和食や洋食、スイーツなど様々なメニューを提供します。もともと、みたのクリエイト(沖縄県中頭郡)が沖縄県で展開していた専門料理店です。

串カツ田中は同年3月に、新業態展開を担うセカンドアロー株式会社を設立しました。同社が鳥玉ブランドを譲り受け、現在、関東で3店舗、宮城で1店舗を展開しています。なかでも2024年2月に上野御徒町駅前にオープンした店舗は、鳥玉と串カツ田中の“二毛作店舗”として注目されています。

セカンドアローは2022年3月、鳥玉に次ぐ新業態として、さいたま市に「タレ焼肉と包み野菜の専門店 焼肉くるとん싸다」の1号店を出店しました。狙いは、串カツ田中の不採算店を資産活用できるモデルをつくること。同店はもともと串カツ田中の不採算店舗でした。この業態転換によって、「焼肉くるとん싸다」が住宅街でも十分に戦えるとことを確認できたそうです。

 串カツ田中の業態でも現在、さまざまな仕掛けでファミリー対応を行っています。くるとんはそれを一歩押し進めて、非アルコール業態という色合いを強く打ち出しました。そのため週末などは子連れのファミリー客が多く、食事をメインに利用されています。くるとんは現在、北浦和と代官山、たまプラーザ、大宮の4店舗。「串カツ田中」と同じ商圏に出店できるのも強みの一つです。

【無料ツール】飲食店開業にどのぐらいの費用がかかってどのぐらい利益がでるの?簡単シミュレーション