回転寿司業界、トップ3の戦略の違い
どんなにコンセプトを作り込んだとしても、同じマーケットの中で似たような切り口で提案を行う飲食店がいくつかあります。その中で勝ち残っていくには、自店の強みを生かした効果的な戦略策定が必須です。
効果的な戦略を策定する上で重要な要素の一つが競合の存在です。外食業界には、日夜、激しい競争を繰り広げている業界がいくつかあります。特に回転寿司は、売上上位の企業同士が熾烈な争いを繰り広げている、非常に競争が激しい業界です。今回は、「スシロー」と「くら寿司」「はま寿司」にフォーカスを当てて、各社がどのような戦い方をしているのかを解説していきます。ぜひ自店の戦略策定の参考にしてください。
回転寿司業界でトップの売上を誇る「スシロー」
現在、回転寿司業界のトップに君臨しているのが「スシロー」です。2011年まで、回転寿司業界のトップランナーは「かっぱ寿司」でした。しかし、その年に「スシロー」がトップに奪取するとそのまま快進撃を続け、現在に至るまで独走状態となっています。
スシローの戦略の特筆すべき点は海外展開のやり方です。人口減少社会に突入し、国内市場が縮小していく中、多くの外食企業が海外に進出するようになりました。しかし、その方法は千差万別です。店舗を急拡大させるため、現地の法人と合弁会社をつくったり、フランチャイズ契約をしたりするケースも珍しくありません。ただ、現地法人などの力に頼りすぎてしまうと、あまりいい結果にはならないことが多いです。日本と海外で物理的に距離ができてしまうため、理念をはじめとした想いの共有がスムーズにできず、ブランドのクオリティにぶれが生じてしまう可能性もあります。
こうした背景を踏まえて、「スシロー」は海外でも全て自社で展開しています。確かに、自社で展開するとなると、進出する国ごとに文化を理解した上で人材を確保しながら、立地を踏まえた展開をしていかないといけません。その分、スピード感を持った店舗展開が難しくなりますが、コンセプトをしっかりと守ることが長く安定した店づくりに欠かせないことも事実です。
「スシロー」はそれぞれの国に責任者を置いて、事業展開の権限を持たせています。もちろん事業を成功に導くには、相応の経営手腕を持っているだけででなく、会社が大切にしている哲学なども理解していないといけません。そうした人材が現地でノウハウを蓄積しながら、展開のための基盤をつくっていることが、「スシロー」の強さの源泉になっています。結果として、地道に築き上げた基盤がスピード成長の起爆剤となり、2023年時点で海外店舗数は135店舗ですが、2026年には403店舗にする計画を立てています。
個店のオーナー様でも店舗を拡大していく局面で、同じような課題に直面するでしょう。もし2号店目、3号店をつくるとき、コンセプトを理解していない店長にお店を任せたら、間違った文化が社内に広がることになります。そうなると、軌道修正に時間と労力がかかってしまい、新店舗の立ち上げどころではありません。
しかし、オーナーがあまり口出しをすると、今度は人材が育たなくなってしまいます。次の展開に向けて、優秀な人材の育成は必須です。それを実現させるためにも、大切にしている考えや価値観を言語化してビジョンに落とし込み、それを全スタッフに定着させていかないといけません。それができて初めて、安心してお店を任せることもできます。力強い成長を実現する上で、「スシロー」の海外店から参考になる点は多いのではないでしょうか。
エンタメ提案に優れた「くら寿司」
「くら寿司」は回転寿司業界2位の売上を誇るブランドです。近年、銀座や原宿などの都市部にグローバル旗艦店を出店し、従来の回転寿司の枠を超えた提案を行っています。
そんな同店の特徴的な取り組みは「ビッくらポン!」です。「ビッくらポン!」とは、食べ終わったお皿を5枚、、「皿カウンター水回収システム」へ投入すると景品が当たるチャンスがあるエンターテインメント・コンテンツです。子どもを中心に圧倒的な人気を獲得していて、それを目当てに来店する方も少なくありません。
そもそも回転寿司という名前は、レーンの上で寿司を回す提案から取られていて、それ自体が業態自体の楽しさもつくっていました。しかし、2023年1月頃に、しょう油ボトルや湯呑みを舐め回したり、他人のお寿司に勝手にわさびを盛ったりする、いわゆる迷惑行為が明るみになりました。その結果、回転レーンはあっても活用しないケースが増え、その代わり、多くのお店が配膳レーンを導入しています。しかし、それにより、エンターテインメントが失われてしまったのも事実です。そうした背景もあり、「ビッくらポン!」の注目度は、以前にも増して高まっています。実際、「鬼滅の刃」や「ワンピース」といった人気アニメとコラボレーションすることも多く、集客装置として大きな存在感を発揮しています。
現在、物価高の影響を受けて節約思考が高まっていて、外食にかける費用を抑えている方も少なくありません。だからこそ、外食ならではの楽しさがないと集客ができませんし、その店ならではの価値がないとリピートをしてもらえません。そのとき、「くら寿司」の「ビッくらポン!」のようなエンターテイメント性を演出できる仕掛けがあると大きな力を発揮してくれるでしょう。最近では、サイコロを転がして出た目の数に応じて特典がある「チンチロリン」や、お客自身で好きなだけお酒を注げる卓上サーバーを設置する居酒屋も増えました。また、アプリを使ってポイントを寄与するのはもちろん、ゲーム性を持たせた仕掛けをつくって再来店を促進しているお店も多くなっています。
自店ならではのエンターテイメント性をどうつくるを考えるとき、「くら寿司」の取り組みから学べる点は多いと思います。
多様なブランドを展開する「はま寿司」の強み
「はま寿司」を展開する株式会社ゼンショーホールディングスが非上場なので、正確な売上は分かりません。ただ回転寿司業界3位に位置付けているといわれているのが「はま寿司」です。
「はま寿司」の特徴は、ゼンショーホールディングスが多様なブランドを展開している点です。昨年、「ロッテリア」を買収して、大きな注目を集めたことを記憶している方も多いでしょう。その他にも、「ココス」や「ビッグボーイジャパン」「華屋与兵衛」「ジョリーパスタ」「はま寿司」と多彩なジャンルのブランドを展開しています。幅広い業態を展開していると、仕入れの煩雑さが増すといったネガティブな一面もありますが、一つの業態の売上が不振に陥っても別の業態でカバーできるなど、非常にメリットが大きいです。トレンドの移り変わりが早く、すぐにブランドも陳腐化してしまう今、その価値は今まで以上に増しているのではないでしょうか。
こうしたメリットを享受できるのは、個店のオーナー様にとっても大きいでしょう。また、人材獲得の問題を解決できる点も見逃せません。実際、居酒屋だけを5、6店舗展開していた企業様が、人材が比較的集まりやすいカフェをあえて展開させるケースも珍しくありません。人手不足が深刻化している中、どのように人を集めるかは深刻な問題です。人がいなければ、安定したクオリティで営業ができないだけでなく、優れたアイデアがあっても実行に移すのが難しい局面もあるでしょう。
しかし、多彩なブランドを展開すると、リスクヘッジをしながら単一業態ではアプローチすることが難しい人材の獲得までできる可能性があります。安定した成長を実現する上で、「はま寿司」の展開から得られるノウハウは大きいでしょう。