話題店の事例から学ぶ!ヴィーガン料理の提案方法
年間190万人のベジタリアン・ヴィーガンが日本を訪れている?!
インバウンドの盛り上がりとともに、日本でもヴィーガンに対する関心が高まってきています。しかし、ヴィーガンの認知度はまだまだ低いのが現状です。
そもそもヴィーガンとベジタリアンの違いをご存知でしょうか。ヴィーガンとは完全菜食主義で、肉や魚はもちろん、乳製品や卵といった動物性食品を食べない人のことを指します。一方でベジタリアンは、菜食主義者の総称。肉や魚は食べないが、植物由来の食品をメインに、乳製品や卵も摂取する点に大きな違いがあります。
宗教や個人的な主義、環境保全の観点から選択する人がいるだけでなく、食物アレルギーでヴィーガン生活をしている人も少なくありません。欧米では、ヴィーガンを選択することが当たり前であり、旅行先の飲食店でもヴィーガン料理を楽しみたいと思っている方も多くいます。
ではまず、ベジタリアン・ヴィーガンを数字で見てみましょう。2023年1月に行なわれた「第4回 日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリアン人口調査 by Vegewel」(株式会社フレンバシー)の調査結果による、日本のヴィーガン率は2.4%でした。世界で見ると、ヴィーガンに関する情報を発信するVeganBitsの調査では、ヴィーガンの人は世界人口の1%程度にあたる約7530万人に上ると推測されています。
観光庁の「飲食事業者等におけるベジタリアン・ヴィーガン対応ガイド」によると、訪日観光客におけるベジタリアンなどの旅行者を推計した結果、年間で145〜190万人程度のベジタリアン・ヴィーガンの人が訪れ、飲食費は約450〜600億円規模とされています。
日本でのヴィーガン率はまだまだ低く、ヴィーガン・ベジタリアン対応食を提供している飲食店も多くはありません。そのため、ヴィーガン・ベジタリアンの訪日外国人が「日本で外食するときに困った」という話もよく聞きます。訪日外国人が増え続ける中、日本でもヴィーガン料理を提案する新店が増えてきています。ここでは新しい発想で取り組む飲食店を、いくつかご紹介していきましょう。
利用シーンを問わずカフェで間口拡大
都内では以前から、ヴィーガン専門カフェが少しずつ出店してきています。一方で、ヴィーガン=ストイックな食生活と捉える人も少なくないため、専門店だと入りづらいといった声もありました。そうした中、ヴィーガンの人もそうでない人も、一緒に食卓を囲む文化づくりを目指したのが「Down to Plant」です。
2024年2月にオープンした六本木ヒルズ店は、サラダグレイン・ボウルをはじめ、動物性食品を使用しない焼き菓子やアイスクリームを提供し、朝食、カフェ、夕食までの利用シーンに対応。ターゲットや利用シーンを広げた、使い勝手のいいカフェとして人気を集めています。
看板商品でもあるサラダグレイン・ボウルは、細かくカットしたロメインレタスに五穀米を混ぜたものをベースに、大豆ミートでつくるつくねなどのプラントベースに加え、チキンやマグロなどの動物性ベースの商品も揃えています。このように、ヴィーガンに偏ることのない商品ラインアップで間口を拡大するのが特徴です。
また代替乳製品を使うことで、なめらかさとコクのある味わいに仕上げたアイスクリーム、バターや牛乳を使わずにしっとりとした食感を再現した焼き菓子なども、開発しています。「食べてみておいしかったものが、実はプラントベースだった」という驚きを提案する商品開発で、ヴィーガンだけでなく、幅広い人の利用を促しています。
難しいとされてきたヴィーガン和食に挑戦
訪日外国人が日本に来て食べたいグルメの中で、上位にラインクインするのが和食でしょう。日本には、古くから仏教の教えに基づく精進料理という食文化があり、動物性食品を使わない和食も数多く存在します。
一方で、和食はカツオやサバなどの動物性のだしが味の骨格になるなど、動物性食品を除いた和食を扱う飲食店はあまりありませんでした。そもそもヴィーガン対応食が楽しめる和食店がないというのが現状でしょう。
そうした中、「国産国消を引き出しとしたサステナブルなおうちごはん」をテーマに、23年10月からメニューを刷新したのが、東京・恵比寿の「小割烹おはし ゑびすりびんぐ」です。
刷新後に注目されているのが、ヴィーガン対応の「野菜が主役の晩ごはんコース」をはじめとする、動物性不使用の一品料理です。和食の命であるだしは、カツオだしに代わり昆布を使用する他、肉料理はソイミート、刺身は魚の代わりに湯葉で対応するなど、さまざまな創意工夫で和食を提供しています。特に湯葉の刺身は、ヴィーガンの人だけでなく、妊婦といった生魚が食べられない人や苦手な人にも喜ばれています。
通常の動物性食品も使った和食に加え、ヴィーガン対応のコースを用意したことで、ヴィーガンの人とそうでない人が、一緒に食卓を囲むことができるようになりました。例えば、10人の予約のうち、2人はヴィーガンコースを注文するといった使い方もされるようになったのです。

訪日外国人が日本で食べたいグルメ上位のラーメン
国民食のラーメンでも、ヴィーガン対応の1杯を提供する店が、少しずつ増えてきています。大阪・新大阪の「らーめん亀王 JR新大阪駅店」では、動物性食品不使用なのに、濃厚でコクのある豚骨の味わいを再現したラーメンを提供しています。
同店はとろける「自家製ちゃあしゅう」で人気を博していることから、ヴィーガン対応のラーメンには、大豆由来の植物性原料で作る「ちゃあしゅう」をトッピング。ボリューム感や食感にこだわった商品開発を行っています。
「ヴィーガン白湯ラーメン」は、野菜と豆乳を使い、素材が持つ本来の旨味を引き出し、豚骨スープ独特のとろみと風味を再現しています。また「ヴィーガン餃子」には、遺伝子組換えをしていない国産の大豆ミートを使用。国産のキャベツ、ニラ、ニンニクなどと合わせ、通常の肉餃子と遜色ない味わいを実現しています。
肉、魚介、卵、乳製品、はちみつ、ゼラチンを使わず、まな板、包丁、鍋、調理箸、ゆで麺機は、ヴィーガン対応メニューと通常メニューで使い分けて調理をする徹底ぶりです。また、食器は分けていませんが、希望があれば使い捨ての食器やコップにも対応するなど、より厳格にヴィーガン生活をする人にも配慮しています。

ヴィーガン人口の増加に伴い代替製品も拡大
現在、動物性食品の代替品も続々と開発されています。海外では、ヴィーガンの寿司が開発されていたり、動物性原料不使用のチーズやバターも登場しています。
ヴィーガンは野菜を食べることでヘルシーな生活を送れるだけでなく、環境問題の改善にもつながると考える人も少なくありません。
牛や豚、鶏などの家畜を育てるのは、大量の土地や水、飼料が必要であり、牛などが出すゲップにはCO2よりも温室効果の高いメタンガスが含まれています。家畜の肥育は気候変動に影響を及ぼすとのデータがあることから、ベジタリアンやヴィーガンなどの肉を食べない(控える)食生活は、気候変動の影響を緩和する可能性が高いと言われているのです。
世界的なSDGsの取り組み、健康的な食習慣、アレルギー対応など、さまざまな観点からヴィーガンの人はこれからも増えるでしょう。
店選びの選択肢に入るためにも、メニューの一部にヴィーガン対応食を取り入れることを考えてはいかがでしょうか。