今、うなぎ専門店が熱い深い訳とは

従来のネガティブ要素を払拭する新業態がヒット?!

アフターコロナでは、寿司酒場やもんじゃ酒場など、新しい業態の勢いが増しています。こうした業態は、従来そのアイテム(商材など)に根付いていたネガティブ要素を打ち消すような新しい提案をすることで、消費者に受けヒットしていると考えられています。

ネガティブ要素とは、例えばすし酒場であれば、寿司をアテに気軽に飲める場所がなかったといった具合です。高級寿司店は手軽に楽しめませんし、回転寿司では飲み利用しにくい。そこで登場した寿司酒場は、寿司とアルコールを同時に、しかも気軽に楽しめる場所としてヒットしました。また、もんじゃ酒場も同様で、アルコールが充実しているもんじゃ焼き店が少なかった点がネガティブ要素。それを打破することで、もんじゃ焼きを食べながらアルコールを楽しめる酒場が人気を集めています。

こうした流れを受け、次にヒットする業態として注目を集めているのが「うなぎ」です。うなぎには、特別な日に食べるというイメージが根付いています。入店のハードルが高い老舗店が多かったり、高単価でなかなか手が出しにくかったりという印象でしょう。一方で、土用の丑の日などを中心に、うなぎをメニューの一部として提供するチェーン店もあります。しかし、常時美味しいうなぎを、しかもリーズナブルに提供する専門店はまだまだ少数です。このことから、市場と消費者のニーズにギャップが生じているということになります。

そこに着目し、いち早く低価格帯のうなぎ専門店に参入するプレーヤーも登場しています。中には、急速に店数を伸ばすブランドも登場するなど、うなぎが日常食になりつつあります。

ここではうなぎの日常化を昔から提案するブランドから、急成長する注目のうなぎ店まで、詳しく紹介していきます。

2003年から愛されるうなぎファストフードチェーン

まず、うなぎのファストフードチェーンの先駆けとして知られるのが「名代 宇奈とと(以下、宇奈とと)」です。創業は2003年。「安い・早い・旨い」をモットーに、うなぎの常識を覆したブランドとして、チェーン展開を進めてきました。

それまでのうなぎは高級イメージが強く、焼き上がりに時間がかかる“待つ美学”が基本とされていました。宇奈ととは、当時「うな丼」500円(現590円)を5分というスピードで提供し、業界内外の話題をさらいました。

安さの秘密は、中国の養殖うなぎを大量に仕入れるスケールメリットにあります。そのうなぎを協力工場で蒸し、焼き、たれ付けまで行うことで、店舗での仕込みや調理を簡略化しています。実際に店舗では、分量分のうなぎを切って焼くだけ。さらに、すでに焼いたものが届くため、焼き時間5分というスピードを実現するのです。

商品品質を高めているのが、炭火焼き調理です。焼き加減が難しいとされる炭火を使用しているにもかかわらず、職人不要で均質化できるマニュアルを整備しています。また、うなぎを挟んで焼く特殊な網も、品質を高める秘密。これにより見た目の焼き上がりも、焼き加減もブレがない商品を提供できるというわけです。

コロナ禍の20年8月には、ライセンス募集を開始しました。コロナ禍で、街中の居酒屋などが宇奈ととを提供する光景を見た人もいるのではないでしょうか。既存店で看板を出さずに宇奈ととのメニューのみを提供する店もあれば、ゴーストレストランとして営業するなど、加盟店に見合った形での営業を行ってきました。その結果、売上の積み増しができる起死回生ブランドとして認知され、21年末にはライセンス加盟店だけで100店を突破しました。宇奈ととがコロナ禍で再ブームとなったのには、うな丼やうな重がテイクアウト・デリバリー向きの商品だったことも大きいでしょう。

現在、HPで公開されている店数は、フランチャイズ(以下、FC)含む全国88店舗、海外10店舗。また、焼き鳥居酒屋「やきとりの扇屋」とのダブルネーム店舗「オオギヤと宇奈とと」も3店舗運営しています。

うなぎのファストフードチェーンとして認知される宇奈ととですが、土地柄飲み利用の多い東京・北千住といった一部店舗では、アルコールとともに楽しめるつまみメニューを増やしています。うなぎを卵で巻いたうまきをはじめ、肝やくりからなどのうなぎの串も提供し、アルコール利用ができるうなぎ酒場として運営しています。

うなぎは日本人だけでなく、今外国人が好む和食としても人気です。それにより、宇奈ととの上野店、浅草店はインバウンド客を集客し、売上げを大きく伸ばしています。

毎月出店を続ける新興のチェーン

今、出店の勢いが止まらない新進気鋭のうなぎ専門店が「鰻の成瀬」です。22年9月に神奈川・横浜で創業し、23年2月から多店化に乗り出すと、24年3月には100店舗を達成しました。今や毎日のように新店をオープンし、24年6月には200店舗を超える勢いで、業界でも大いに注目されています。

コンセプトは「うまい鰻を腹いっぱい!」。うな重は松竹梅の3プライスで、うなぎ半身分の梅1600円、3/4尾分の竹2200円、1尾分の松2600円で構成しています。価格は老舗うなぎ専門店の半額程度、量は1.5倍(自社調べ)を実現することで、コンセプトを体現しています。

うなぎは古くからの国民食で流行り廃りがない上、高級イメージがあるため単価もとれることに目をつけ、うなぎ専門店の開発に至ったそうです。そこにもっと気軽に食べられる環境づくりのため、職人に依存しないうなぎの調理法を確立。オペレーションのシステム化で、リーズナブルな価格での提供を実現しています。

同ブランドの特徴は、誰が作っても均質に仕上がる調理法と、1日6時間営業で人件費を抑制している点にあります。うなぎは味、価格、安全性という3つの理想にこだわり、加工場でさばき、一時調理されたものが冷凍で店舗に届きます。それを解凍した後仕込み中に蒸し、営業中はオーダーごとに焼いて提供するという流れです。蒸しと焼きの調理は、あらかじめ調理時間が設定されているため、ボタンを押すだけと簡便なオペレーションです。標準提供時間は8分で、ピークタイムの高回転率を実現します。

営業時間は昼夜各3時間と統一(立地に応じて調整する場合もあり)。これにより、人件費率を10〜20%に抑え、その分を原価率に投じてお値打ち感をだしているのです。

また、客層にも特徴があります。一般的なうなぎ専門店の主客層が40代以上の中で、鰻の成瀬は20〜30代の若年層も獲得しています。それは、メディア露出やSNSマーケティングによるもの。新たな顧客層の拡大で、うなぎ市場の成長にも貢献しているというわけです。

経営するフランチャイズビジネスインキュベーション株式会社の代表取締役社長、山本昌弘氏は、自身のXにて、直営店の日々の売上げを公開しています。FCオーナー同士の交流を禁じていた旧来のFCビジネスとは異なり、オーナー同士のコミュニケーションも盛んで、お互いに取り組んだ施策の共有なども実施しているそうです。こうした開かれたFCビジネスも、加盟店を増やす要因の一つでしょう。

流行り廃りがなく世代問わず好まれるうなぎ

これまで紹介したチェーン型のうなぎ専門店の展開により、気軽にうなぎを食べられる環境が整備されつつあります。この流れを受け、個人の低価格のうなぎ専門店も少しずつ増えてきました。

うなぎは世代問わず好まれる食材ですが、なかなか手が出にくい食材でもあります。今、若い世代が安く食べられる専門店を利用できるようになったことで、うなぎの価値はますます引き上がってきていると予想できます。

さらに、タピオカや生食パンのような、一過性で消える新参の食材ではないことから、長く続けることができます。先に紹介した2大チェーン以外にも、さまざまな低価格うなぎ専門店が増えてくるのではないでしょうか。

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