「進化系専門店」がリードするおにぎりブーム最前線

首都圏で続々オープンの「ごちそうおにぎり専門店」

ここ1、2年、全国各地でおにぎり専門店がオープンし、おにぎりブームの様相を呈しています。特に首都圏では、米や具材にこだわった「ごちそうおにぎり」の専門店が次々とオープン。なかには6時間待ちの行列店もあるなど、社会現象とさえいえる状況になっています。

おにぎりといえば、昭和の時代には学校の遠足や行楽のお弁当の定番で、主に主婦が自らの手で作るものでした。おにぎりを店で買うことが一般化したのは、1970年代後期にコンビニの店頭に並び始めてからのこと。その後、おにぎりはあっという間にコンビニの主力商品に育ちました。2000年代に入ってからは高級化や個性化が見られ、ヒット商品も出現。コンビニがおにぎり市場をリードする時代となりました。

20~60代の男女会員1000名を対象にした、とある調査では、男性は、おにぎりを「コンビニで購入」する人が全体の64%でトップ。女性のトップは「自分でつくった」(65.7%)でした。一方、おにぎり専門店での購入意向を尋ねると、全体の79.9%が「購入してみたい」「やや購入してみたい」と、関心の高さを示しました。購入してみたい理由は「米がおいしい」「具材がおいしい」「具材の豊富さ」で、おいしさへの期待感が上位を占めています。

お米は契約農家直送、具材にも徹底してこだわる

首都圏で近年オープンしたおにぎり専門店の各メニューは、その期待感に応えられるクオリティのものが揃っています。2023年6月に五反田駅から徒歩約2分の所にオープンした「おにぎり屋 まるかね」では、全国各地を食べ歩くオーナーが、美味しさと健康にこだわった素材を自ら厳選。お米は冷めても甘味と柔らかさを損なわないミルキークイーンと、つやも香りも良く旨味の強いコシヒカリを使用。これらは信州の契約農家から直接仕入れています。海苔は希少な伊勢湾産のなかから、おにぎりの味や食感に合わせたタイプを使い分け。具材にも徹底してこだわり、北海道や京都などの専門業者や製造者と契約し、安定供給を実現しました。オリジナルの「ねぎしそ油揚げ」(250円)をはじめ、いずれも価格はコンビニの定番おにぎり2個分を超えますが、購入客の満足度の高さはそれ以上のようです。

1960年に山手線大塚駅前で創業した行列店の「おにぎりぼんご」は、おにぎり専門店の草分けです。2022年9月に閉店し、その翌月、大塚駅から徒歩2分程の場所に移転オープンしました。同店は寿司店のように、握りたてのおにぎりをカウンターで温かいまま提供するスタイルです。お米はコシがありツヤや香り、食感のバランスがいい新潟県岩船産コシヒカリ。具材の種類は60種類近くあって、好みに応じてトッピングできることが人気です。ネットのレビューには「サケと生タラコのおにぎりが大きくて柔らかい。ご飯の温度が絶妙で、メチャクチャ旨い!」といった評価が溢れています。

おにぎりブームには様々な要因が

首都圏ではそうした進化系、あるいはごちそう系の新店舗が目白押しで、地方にもすでに波及しています。なぜ今、おにぎり専門店市場が急展開を見せているのでしょうか。その要因について、作家・生活史研究家の阿古真理さんが、複数のサイトで次のように的確な指摘をしておられます。

・コロナ禍でテイクアウト需要が高まった

・2010年代後半に、健康面から小麦粉の評価が下がった

・「露・ウ戦争」で小麦の価格が上昇し、お米や米粉の人気が急上昇した

・2018年と2020年に、影響力の高いテレビのバラエティ番組でおにぎりが特集された

・数十種類も選べるおにぎり専門店は動画でも映えるため、Z世代の間で人気が高まった

・ここ数年、老舗のおにぎり専門店がメディアで脚光を集め、改めておにぎりが注目された

それらの要因に加えて今回のブームには、「ごちそう化」にもかかわらずリーズナブル価格だという点も大きいのではと考えられます。進化系専門店のメニューを見ると、ごちそうおにぎりでもトッピングなどをしない限り、単体で500円を超える価格はそう多くありません。

米飯と素材、または具材とで構成するシンプルな料理という点で、寿司とおにぎりは似ています。しかし高級寿司店には1貫が数千円という時価メニューもありますが、ごちそう業態とはいえ、おにぎり専門店ではそんな高単価のメニューはまずないでしょう。ごちそうを食べる満足感があって、財布にも優しい。そんなごちそうおにぎりが、賃金の上がらない昨今の日本の勤労者に歓迎され、ブームを呼んでいるのではと考えられます。

「手軽でおいしいおにぎり」は日本の文化

J-marketing.netの「食と生活」のマンスリー・ニュースレター第160号では、「おにぎりブーム到来! おにぎりが選ばれる理由とは」と題して、おにぎりブームを取り上げています。そのなかで、おにぎりを作るのと買うのとではどちらが安くつくかが試算されています。結論は「おにぎりは作るよりも買う方が安い!」。試算によると、一般的なおにぎりを1個つくる場合の「機会コスト」と材料費の合計が164.4円。これは購入価格の平均金額の140.5円を23.9円上回ります。つまり、おにぎりをつくるよりも、買った方が1個あたり23.9円安いということです。主婦の方は、なんとなくそういったことを肌で感じているのかもしれません。

おにぎりブームの背景のひとつとして、「ごちそう化」にもかかわらずリーズナブル価格だという点を挙げました。おにぎり専門店がこの「手軽に買える価格レンジ」を逸脱しない限り、今の状況が一過性で終わるとは考えられません。ひとつには、子供や若者も含む大部分の国民がおにぎりに馴染んでいて、おにぎりが日本の文化として根付いているからです。

前述したJ-marketing.netのマンスリー・レターでは、2023年12月に20~69歳男女1071人に対して実施した、おにぎりに関するアンケート調査の結果が報告されています。その中に「おにぎりを購入する理由を教えてください」の質問があって、回答率のトップスリーは次の通りです。

1位 「価格が手頃、安価」(回答率53.6%)
2位 「ワンハンドで食べやすい」(〃41.0%)
3位 「おにぎりが好きだから」(〃33.2%)

鎌倉時代から日本人に愛され続けてきたというおにぎり。今後も手軽さという最大の魅力を守りながら、市場拡大が続くと思われます。

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