卓上サーバーはまだ古くない!?まだまだ進化する深い訳とは

卓上サーバーはもう古い?

コロナ禍では営業時間の変更や、人々の行動変容が求められた結果、飲食店の提案の仕方も大きく様変わりしました。唐揚げやフルーツサンドなど、新しい業態が注目を集め、一気に店舗数を増やしたことを記憶されている方も多いのではないでしょうか。また、コロナ禍では外食に行く回数が減り、「せっかく外食をするのならいいものを食べたい」というニーズが高まり、回転寿司や焼き肉店の売上が好調でした。居酒屋大手のワタミ株式会社が、居酒屋「和民」を「焼肉の和民」へ業態転換させて大きな話題をさらったのがコロナ禍一年目の2020年12月です。

卓上サーバーを設置した焼肉店も、コロナ禍で存在感を高めた業態の一つでしょう。当時、そうした業態が注目された背景には、エンターテインメント性と時間制の二点があります。まずエンターテインメント性を象徴するのは、卓上に設置されたサーバーから自分でサワーを注ぐスタイルです。旅行などが制限され、閉塞感が漂っていたこともあり、非日常を楽しめる酒場として一躍注目を集めました。また、コロナ禍で長時間の宴会が禁止されていたとき、自分のペースで飲めるアイテムを活用した時間制が受けた点も無視できません。こうした背景を受けて、若者を中心に人気を集め、アルコール業態が苦戦したコロナ禍でも店舗数を伸ばしていきました。中でも有名なのがGOSSO株式会社の展開する「0秒レモンサワー® 仙台ホルモン焼⾁酒場 ときわ亭(以下、ときわ亭)」と、株式会社ミナモトの展開する「焼肉ホルモンたけ田」です。

コロナ禍が収束した後、当時、流行った多くの業態は、勢いをなくしています。それと同様に卓上レモンサワーのお店も一時よりも出店スピードが落ちているのも事実です。しかし、とある側面から、卓上サーバー自体は関心を高めています。二つの店舗の特徴を振り返りながら、新たな可能性に迫っていきます。

「ときわ亭」の強さの秘密

ときわ亭の一号店は、コロナ禍よりも前の2019年12月に横浜西口に誕生しました。それ以来、2年で50店舗を超える急成長を実現しています。その成長を牽引する象徴こそ、全卓に設置しているレモンサワーサーバーです。好きなだけ注ぎ放題、飲み放題の待ち時間“0秒”のストレスフリーな飲み放題が楽しめます。同店が卓上レモンサワーブームの火付け役であり、実際、同店を展開するGOSSO株式会社代表取締役の藤田建氏は「外食アワード2021」外食事業者部門を受賞しています。

同店のコンセプトは、「ストレスフリーな焼き肉エンターテインメント」です。その裏には、お客様に楽しんでもらうには、まずはスタッフが楽しんでいないといけいといった考えがあります。スタッフがお客様から「すいません」と頻繁に呼ばれないなど、仕事上のストレスを減らすため、テーブルオーダーシステムや配膳ロボット、自社アプリなどを活用し、DXの推進に注力しています。それが他の類似店との差別化となるだけでなく、ブームを牽引する存在まで成長できた大きな要因になったといっても過言ではありません。

一方で、作業のストレスを減らしてできた空き時間は、顧客接点に当てています。例えば、お客様が「名物 塩ホルモン」を網に投入するときにスタッフ全員が発する「いってらっしゃい」という掛け声です。他店とは違ったアプローチをすることで「あのホルモンの店」と、お客様の記憶に残ることができるでしょう。同社の理念は「美味しい・楽しい・新しい食空間を通じて、お客様と働く仲間の笑顔とありがとうの輪を広げ続けること」です。おいしいと楽しいを実現している飲食店は数多くありますが、三つを成り立たせているところはなかなかありません。しかし、それができて初めてお客様の記憶に残ることができるのも事実です。さらなる高みを目指して、ときわ亭は進化を続けています。

着実にファンを獲得する「焼肉ホルモンたけ田」

「焼肉ホルモンたけ田」は一号店のオープンは2019年2月です。卓上レモンサワーブームの火付け役は「ときわ亭」だと言及しましたが、関東で初めて卓上サーバーを導入したのは同店だと言われています。

そんな同店も働きやすい環境づくりに成功したブランドです。そもそも焼肉ホルモンたけ田の開発テーマは「社員が2週間休んでも大丈夫な業態を作る」で、実際、社員が一人の店舗でも3連休を取得することが珍しくありません。そういった環境を実現できたこともあり、QOLの高い業態として知られています。

それを実現するため、こだわったのが属人化の排除です。お肉は店舗でカットする必要があるとアルバイトではなかなか対応できません。結果として、社員にしかできない仕事となり、その分だけ作業が属人化してしまうでしょう。そうした要素を排除するためにも、カットした後はすぐに瞬間凍結することで、お店では解凍するだけにしました。しかし、高い冷凍技術を使っているので、鮮度が落ちる心配はありません。そのためアルバイトだけでも、何の負担を感じることなく、鮮度の高いメニューを提供することができています。

実際、お肉の品質の高さを口にするお客は多いです。同ブランドは、日常づかいの焼き肉店なので、過度にSNS映えを意識したメニュー開発を行ってきていません。だからこそ徹底的に品質にこだわり、ブランド誕生後すぐに黒毛和牛を使ったメニューの開発にも取り組んできました。その結果、「お値打ち価格で黒毛和牛が楽しめるお店」というブランドイメージができ、現在、多くのファンを獲得するに至っています。

そもそも同店の一号店は、埼玉県入間市で誕生しました。入間市は埼玉県内でも人口数がトップ10に入らず、いわばローカルです。しかし、「焼肉ホルモンたけ田」は、コロナ禍はもちろん、ポストコロナ社会になってからもさらに成長を続け、現在、プロデュース型のFC店を含めて50店舗に届こうとしています。それは地域に根付き、長く愛される店づくりができるからこそ達成できた数字だといってもいいでしょう。

今後、「焼肉ホルモンたけ田」は、地域で長く愛される店づくりをモットーに、1店舗1店舗をきちんと育てることに注力しながら地域一番店の集合体としてのチェーン像を目指していきます。

省人化とエンターテインメント性

ときわ亭も、「焼肉ホルモンたけ田」も、卓上サワーという派手なアイテムで話題を呼んで、人気店となったように感じるかもしれません。もちろん、そうした一面もあるでしょう。しかし、両店に共通しているのは、スタッフの働きやすい環境の実現です。それがあって初めて安定的に営業できる体制が整い、人の力を発揮したオペレーションを組むことができます。両店とも卓上サワーをその手段として活用し、他店との差別化を実現するだけでなく、高い競争力を生み出しています。

現在、飲食店を経営する上で、考えないといけない課題が人手不足と人件費の高騰です。省人化を実現するため、さまざまテクノロジーを活用する動きも盛んです。しかし、お客様のスマートフォンでオーダーできるモバイルオーダーなどは、スタッフの負担を軽減できるもののオーダーテイクの負担をお客様に押し付けている側面があります。お客様の方もそこに気付き始めていて、どのように省人化をしていくかを、一つ一つの飲食店が考える必要に迫られています。

その一つのキーワードになるのがエンターテインメントです。例えば、現在、ビュッフェを行う飲食店が増えています。ビュッフェは、お客様にとっては少しずついろいろなものが楽しめる、いわば非日常を味わえるエンターテインメントです。その一方で、お店側にとってはホールスタッフのオーダーや料理の提供という作業を削減することができるにもかかわらず、お客様の満足度は高く、非常に好評を博しています。つまり、省人化を実現するのなら、お客様にもお店にもメリットがあるような方法でなければならないといえるでしょう。

卓上サワーも同じような理由で定着をしていくはずです。ただ卓上サワーを設置した上で、どんな価値を提供していくか。そこが勝負の別れ道になっているのは間違いありません。

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