飲食店スタッフトレーニング: サービス品質の高め方

ここ数年、選ばれる飲食店をつくるために、顧客体験価値の重要度が高まっています。現在、宴会ニーズが戻ってきているものの、歴史的な円安などの影響を受けて、経済の先行きが読めず、個人商品は伸び止んでいます。その影響を受けて、外食需要の先通しは決して明るいとはいえません。そこで選ばれているのが、外食ならではの価値を提供しているお店です。せっかく外食をするのなら、飲食店でしかできない体験をしたいというニーズが伸びているともいえるでしょう。

顧客体験価値を向上させるには、料理に力を入れるのも一つの手段ですが、それと同じくらい人によるサービスが必要不可欠です。ただ、顧客体験価値を高めるサービスは一朝一夕では実現できません。やはりスタッフ個々のレベルを、トレーニングを通して向上させて実現していくものです。それでは、どのようなトレーニングをしていけば効果的なのでしょうか。新人の戦力化を中心に、そのポイントをまとめていきたいと思います。

OFF-JTによる教育が必要なわけ

スタッフのトレーニングは、OJTとOFF-JTを組み合わせて行っていきます。OJTは、「On the Job Training(実務内で行われるトレーニング)」の略で、実務を通してスキルを教育していく教育手法です。一方のOFF-JTは「OFF the Job Training(実務外で行われるトレーニング)」の略で、実務から離れてセミナーや勉強会で知識を習得する教育手法を指します。

OJTとOFF-JTは、おおよそ8:2の割合で行う飲食店が多いです。例えば、新人教育に10時間用意し、そのうちOJTとしてオリエンテーションを2時間行った後、OFF-JTで基本動作を2時間、基本作業を6時間、それぞれ教育するといった流れになるでしょうか。

OFF-JTだけでも戦力化することはできますが、チームとして一体感を持った取り組みなどをするのは難しくなる可能性があります。このお店は何のためにあって、お客様にどのようなサービスを実現しようとしているかが分かっていないと、ただ目の前の業務をこなすだけになってしまうでしょう。それでは顧客体験価値を高めるサービスの実現はできません。

だからこそ必要なのがOFF-JTです。OFF-JTは新人スタッフの場合、入社して最初の数時間確保します。具体的に何時間確保するかは、各お店のスタッフの充足率や新人教育の方向性などによって変わってくるでしょう。ただ伝える内容は、理念やサービスで大切にしていることなど、お店によって大きく変わることはありません。このとき給与の振り込みやシフトの提出の仕方など、業務に関する共有事項も伝えていきます。

新人のOFF-JTを誰か担当するのかは、各店舗によってさまざまな考えがあります。店長や社員などが行うこともあれば、ある一定以上のレベルに達したアルバイトを含むスタッフが行うケースも少なくありません。そのスタッフに任せると、後輩を育てることで責任感が生まれるとともに、モチベーションを高める効果も期待できるでしょう。

いずれにせよ、OFF-JTを実施することでお店の目的が共有され、意思疎通をスムーズに行うことができます。それが顧客満足度を高めるサービスを実現させるための下地にもなるため、どんな内容を伝えていくべきかはもちろん、自店の存在理由などについて、あらためてまとめてみるのもいいでしょう。ただ、開業したばかりのお店だと、オーナー様が教育を担当せざるを得ず、営業との両立が難しくなることもあると思います。その場合は、教育ツールなどのテクノロジーも活用して、負担を減らしながらも、伝えるべきことはしっかりと伝えられるように取り組んでみてください。

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マニュアルがOJTの効果を高める

OFF-JTが終了したら、いよいよOJTの開始です。OJTを行う前に、もしマニュアルがなかったら、この機会にぜひ用意しましょう。マニュアルの必要性については、さまざまな意見があります。「うちはお客様に合わせたサービスをしているので、マニュアルがありません」といった話も多いです。もしマニュアルがない場合、考え方を教えることになるため、専属のトレーナーなどを置くことになるでしょう。実際、高いホスピタリティを売りにした飲食店では専属トレーナーを置き、付きっきりで指導に当たっていたりします。ただ、コストと労力がかかるという難点があるのも事実です。

そこまで負担を掛けられない場合は、マニュアルを用意することをお勧めします。マニュアルは、あくまでも基準です。スタッフを褒めたり、注意したりするのも基準があるからこそできます。もし基準がなかったら、オーナー様と教育担当者の認識が統一できず、それぞれの主観で判断することになるでしょう。行動の優先順位が違うという注意も、基準があって初めて効果を発揮します。基準がないのに注意をされたら、スタッフは困惑や反発をし、モチベーションを落とすことにもつながり兼ねません。逆に、褒めることも、明確な目標があって、それに対してしっかりとアプローチができたことを、双方が分かっていて意味があります。なぜ褒められたのか分からなければ、モチベーションが上がることはないですし、他のスタッフも真似をしようとは思いづらいでしょう。

マニュアルがあると、こうした課題が解決し、お店のスタッフ全員が共通認識を持って、仕事に打ち込むことができます。それがチームとしての一体感になり、想像を超えるようなサービスを実現する原動力にもなっていくでしょう。開業前はやるべきことが多くて大変だとは思いますが、自身の考えの整理にもなるので、ぜひマニュアルを用意してみてください。

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OJTの成果を上げる教育のポイント

OJTでは、経験が浅い場合など、教育する側も戸惑うことが多いかもしれません。OJTで行うべきことは、気づきと判断のトレーニングです。

まず気づくべきポイントを教えて、そこに正しく気づけているかどかを確認していきます。気づけることが増えてきたら、何から手をつければいいのか分からなくなるため、今度は優先順位を教えていきましょう。気づいていることを整理し、どんな理由で、何から手をつければいいのかを教えて、自身で的確な判断をできるように導いてください。

気づくべきポイントは、例えば一般的なテーブルサービスのお店では、入り口にお客様がいるか、お客様がご案内されているかどうか、ご案内されたお客様のお手元にメニューがあるかどうか、お冷は提供されているかどうか、そしてメニューが決まったかどうかなどです。一方で、優先順位は、お店によって変わってくるでしょう。例を挙げると、最優先はご案内、2番目がオーダー、3番目が料理の提供、4番目がバッシングなど、お客様のクレームにつながりやすい業務を優先していく方法があります。自店で大切にする価値観などを踏まえて決めてみてください。

お店で優先順位を共有できていると、なぜあのスタッフはAの作業ではなく、Bの作業をやっているのか、他のスタッフも理解することができます。すると、手が回っていない2番目、3番目以降の業務を自然とフォローできるようになり、チームが有機的に連動し出します。そうなると全スタッフが、お客様を第一にした営業も実現しやすくなるため、自ずと顧客体験価値も高まっていくでしょう。

この他にも、評価制度を整えて、どの程度できたら昇給をするかなどを明確にするとスタッフのモチベーションを高め、成長を加速させることもできます。従業員体験価値が向上して初めて、顧客体験価値が向上することがあるのも事実です。それを踏まえて、同時に評価制度を整えていくのも有効な手段ではないでしょうか。

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