一人で飲食店開業するために必要な資格|一人で開業するメリット・デメリットや成功のコツも解説
一人で飲食店を開業したいと考えている方の中には、初めてのことで何から取り組めばよいのかわからない方もいるでしょう。
一人で飲食店を開業する場合には、必要な資格や届け出がいくつかあります。申請を忘れると罰則が発生するものもありますので、事前にしっかりと確認しておきましょう。
また、店舗の営業形態を考える際のヒントとして、一人で飲食店を開業するメリット・デメリットを把握しておくことも大切です。
この記事では、一人で飲食店を開業する際に必要な資格や届け出と合わせて、メリット・デメリットについて説明します。さらに、成功のコツも紹介しますので一人で飲食店開業したいけれど悩んでいるという方は、ぜひ参考にしてください。
一人で飲食店を開業するのは可能?
必要な資格の取得や届け出を行えば、一人でも飲食店の開業は可能です。
ただし、すべての業務を一人でこなす必要があるため、どのような形態の店舗にするかが重要になってきます。
例えば、カウンタースタイルの店舗なら、厨房から出ずに対応できるので効率よく店舗運営が行えるでしょう。また、テイクアウト専門店や完全予約制にするなどのアイデアもあります。
一人での飲食店開業を検討している方は、店舗規模や営業形態を考えるところからはじめてみましょう。
一人で飲食店開業をするために必要な資格
飲食店を開業する際は、必要な資格を取得する必要があります。
飲食店だから「調理師免許が必要ではないか?」と思うかもしれませんが、調理師免許は必須ではありません。
必ず取得しなければいけない資格と、店舗の規模によって必要となる資格があるので、まずは飲食店開業に必要な資格についてしっかりと確認しておきましょう。
食品衛生責任者
食品を取り扱う施設では、施設ごとに食品衛生責任者1名を置くことが義務付けられています。施設で食品衛生管理を行う責任者となるため、食中毒や食品衛生法違反を起こさないように衛生管理を行わなければいけません。
食品衛生責任者を選任したら、営業許可申請の際に保健所へ届け出をしましょう。
食品衛生責任者が必要な理由と役割
食品衛生責任者は、食中毒や食品事故を防ぐために必要な資格です。以下の役割を理解し、店舗の衛生管理を行わなければいけません。
- 営業者の指示に従い衛生管理を行う
- 食品衛生上の危害発生防止のため、不備を発見した場合は営業者に改善を進言し、その促進を図る
- 法令の改廃に注意し、違反行為のないように努めなければならない
- 食品衛生に関わる講習会を定期的に受講し、食品衛生に関する新しい知見の習得に努める
一人で飲食店の開業を行う際は、食材の保管・調理・調理器具の洗浄など、衛生管理のルールや手順を決めておきましょう。
食品衛生責任者の取得方法・費用
食品衛生責任者の資格は、計6時間程度の講習会を受講することで取得可能です。
ただし、以下の資格を持っている方は、すでに食品衛生に関する知識があるとみなされるため講習会の受講が免除されます。
- 調理師:ほかの都道府県で食品衛生責任者の講習を受講し修了した人
- 製菓衛生士
- 栄養士
- 船舶料理士
- 食品衛生管理者または食品衛生監視員となる資格のある人
- ほかの都道府県で食品衛生責任者の講習を受講し修了した人等
講習会の受講は、会場集合型かeラーニングのどちらかを選択できます。どちらの方法でも、費用は全国で10,000円程度です。
会場集合型であれば、講習時間は朝〜夕方頃までの6時間で、1日で講習からテストまで完了します。予約枠が埋まりやすい場所もあるため、会場で講習を受ける場合は早めに予約しておきましょう。
eラーニング講習は、自分の好きなタイミングで24時間受講できるというメリットがあります。ただし、ほとんどの都道府県で受講可能期間が登録日から30日〜40日以内と決まっているため期限切れに注意しましょう。
防火管理者
1店舗の収容人数が30人以上の場合、防火管理者を置く必要があります。この収容人数は、来店されるお客様はもちろん、従業員も含まれるため注意が必要です。
また、テナントビルに入居する際も注意が必要です。ビル全体の収容人数が30人以上の場合、自店舗の収容人数が30人未満であっても、防火管理者を設置する必要があります。
これらのポイントをしっかり理解しておくことが重要です。
防火管理者は講習を受講するだけで取得可能ですが、防火管理の責任を適切に遂行できる立場の人がよいとされています。そのため、アルバイトやパートスタッフではなくオーナーや店長など監督的地位のある人が適任です。
防火管理者が必要な理由と役割
防火管理者は、火災などによる被害を防ぐために防火管理の計画を立てる必要があります。また、万が一火災が発生した場合に被害を最小限に止めるための対策を立て、それを実行することが防災管理者の役割のひとつです。
その他の防火管理者の役割も確認しておきましょう。
- 火気の使用又は取扱いに関する監督
- 避難施設の維持管理
- 消防用設備の維持管理
- 火災に備えた消火訓練や避難訓練の実施
過去の火災では、火災発生時の初動対応の不手際や消火用設備の不適切な維持管理で被害が大きくなっています。大切な命を守るためにも、徹底した防火管理が大切です。
防火管理者の取得方法・費用
防火管理者の資格取得は、都道府県知事・日本防火・防災協会・市町村の消防庁が行っている講習を受講することで取得可能です。
防火管理者は、店舗の面積によって取得すべき資格は異なります。
- 甲種防火管理者:延べ面積が300平方m以上の場合
- 乙種防火管理者:延べ面積が300平方m未満の場合
ただし甲種防火管理者の場合、消防設備点検資格者(特種・一種・二種)・自衛消防業務講習修了者は、一部科目の受講が免除されます。
講習費用は5,000〜7,000円ですが、地域や受講年度によって異なるので、事前に確認しておきましょう。
一人で飲食店開業をするために必要な届け出
一人で飲食店を開業するときに必要な届け出がいくつか存在します。
この届け出は製造するものや営業時間帯によって必要書類が異なるので、自分の店舗にはどれが当てはまるのか、事前に確認しておくことが大切です。
申請を忘れると罰則が科されるものもあるため、注意しましょう。
営業許可申請
営業許可申請をする前に、管轄の保健所へ事前相談にいきましょう。地域によってルールや施設基準が異なることもあるので、開業予定の施設が基準を満たしているかなど確認するためにも事前相談は重要です。その際、工事前の図面を持参することで、スムーズに相談が進むでしょう。
その後必要書類を揃えて、紙ベースか電子申請のどちらかで管轄の保健所へ提出しましょう。書類提出は開店予定日の10日くらい前までとしている地域が多いですが、工事終了時点で検査を受けられるように早めに提出しておくことがおすすめです。
菓子製造業許可申請
社会的にお菓子と認識されているものを製造する場合は、菓子製造業許可申請が必要です。例えば、ケーキ・あめ・せんべいなどが対象となります。
これにはパン製造業も含まれますので、パン屋を開業予定の方は菓子製造業許可申請を行いましょう。
深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出書
午前0時〜午前6時の深夜に酒類を提供する飲食店を開業予定の方は、深夜酒類提供飲食店営業開始届書を管轄の警察署へ提出しなければいけません。
一人で飲食店開業する方であれば、バーやスナックを検討している場合に必要となってくるでしょう。
防火対象設備使用開始届
防火対象設備使用開始届は、飲食店開業前に消防署に提出する必要があります。これは工事の有無に関わらず使用を開始する7日前までに提出しなければいけません。
また、店舗の修繕などの工事を行う場合は、着手する7日前までに防火対象物工事等計画届を提出しましょう。
火を使用する設備などの設置届
火を使用する設備等の設置届出書は、コンロ・ボイラーなどの火を使用する設備を建物内外に設置する際に必要です。この届出は、設置する7日前までに管轄の消防署に提出しなければなりません。届出を行った後は、原則として消防署の検査を受けることが求められます。安全な火の使用を確保するためにも、これらの手続きは欠かせないものですので、十分な注意が必要です。
個人事業の開廃業等届出書
個人事業主として新規に飲食店を開業する際、個人事業の開廃業届を管轄の税務署に提出する必要があります。
提出時期は、事業開始等の事実があった日から1ヵ月以内です。e-Taxからの申請が推奨されています。期限内に提出するよう、心がけましょう。
一人で飲食店を開業するメリット・デメリット
一人で飲食店を開業するとき、本当に大丈夫なのか、と不安になることがあるでしょう。
その不安は、一人で飲食店を開業するメリット・デメリットを把握することで軽減されるかもしれません。
メリット・デメリットをそれぞれ3つずつ解説していきますので、参考にしてください。
【メリット】自由に仕事を進めやすい
一人で飲食店を開業すると、すべての決定権が自分にあるため自由に仕事をしやすくなります。つまり誰かに話を通す必要がなく、やりたくないことはやらないという選択も可能です。また、最終決定権が自分にあることで、さまざまなことがスピーディーに進みやすくなります。
一人で飲食店を開業することは、企業やお店に雇われていたときにはできなかったこと、やりたかったことをするチャンスです。
【メリット】開業資金・人件費を削減できる
一人での飲食店の開業は、従業員が自分一人ということもあり最初は小規模の店舗となるでしょう。
小規模の店舗であれば、開業資金や人件費の削減ができるメリットがあります。
日本政策金融公庫総合研究所の2023年新規開業実態調査によると、開業費の平均値は1,027万円です。店舗の規模が大きくなれば、内装工事や厨房機器などの費用がかかってきます。
しかし一人であれば、店舗の規模が限られてくるため開業資金が抑えられると考えられます。
【メリット】従業員の契約・管理の手間がかからない
一人で飲食店を開業すれば、人材にかかる手間や時間がかかりません。
アルバイトやパートスタッフを雇う場合、シフトを組んだり給料の計算をしたりと時間が取られてしまいます。また、従業員を雇う際の書類管理も必要です。
そのため、一人であれば、その時間をメニュー開発など他の業務に充てることができるというのが大きなメリットの一つです。
【デメリット】売上が伸びにくい
一人で飲食店を開業した場合、業務の分担ができないため売上は伸びにくくなります。その原因は、対応できる客数に限界があることです。
飲食店で売上を伸ばすためには、客単価・回転率・客席数などを増やしていく必要があります。しかし、一人ですべてを行うことはできないため、客数よりも客単価を上げるための施策を考えておくのも対策のひとつです。
【デメリット】サービスが行き届きにくい
一人で飲食店を開業すると、すべての業務を一人で行うためとても忙しくなるでしょう。仲間や従業員がいれば、さまざまな角度から見られるため、アドバイスをもらえるかもしれません。
しかし一人で飲食店を回していると、どこかで見落としている部分が出てくる可能性があります。普段からより注意して周りを観察しておくことが必要です。
【デメリット】休みが取りにくい
一人で飲食店を開業する際、定休日も自分で自由に決めることができます。しかし、急な体調不良や定休日以外に行っておきたい用事ができた場合に休みをとりにくいでしょう。また、店舗運営すべてを一人で行わなければいけないため、営業日にできなかったことを定休日にすることも少なくありません。一人で飲食店を運営する場合、休日が休日ではなくなってしまいがちになる場合もあるため、自分で計画を立てて休むことも必要です。
一人で飲食店を開業するときの成功のコツ
一人で飲食店を開業すると決めても、一体どのように進めていけばよいのかわからなくなる方も多くいます。
そんなときは、やるべきことを決めて順番に進めていきましょう。ここから紹介していく一人で飲食店を開業する際のコツを参考にしてみてください。
コンセプトの決め方
飲食店の開業にはコンセプト決めが重要だとわかっていても、どのように決めていけばよいのか悩む方が多くいます。そこで、以下のことを意識して考えてみましょう。
- どこで
- 誰に
- 何を
- いくらで
- どのように
考えがまとまっていなくても、まずは箇条書きでも書き出していくことが大切です。書いていくことでイメージがまとまり、店舗の立地や物件選びにも役立ちます。
物件の選び方
一人で飲食店を開業する場合、スムーズに効率よく運営できるかどうかを考えて選びましょう。おすすめの面積と席数はこちらです。
- 面積:10〜15坪
- 席数:10席程度
カウンタースタイルだと接客や料理の提供などをカウンター内から行うことができるため、一人で飲食店を切り盛りするには適しているかもしれません。テーブル席を設置する場合は、効率的に店内を移動できる動線を確保できるかなどを確認しましょう。
設備の選び方
一人で飲食店を開業すると、接客から調理まで一人で行わなくてはいけません。効率よく店舗運営するためにも、業務を効率化できる設備の導入は積極的に検討しましょう。
例えば以下のような物があります。
- 食器洗浄機、低温調理器:自動化することでほかの業務の時間に充てられる
- セルフオーダーシステム:スマートフォンやタブレットを使って注文できるので、スタッフの業務削減とお客様のストレス軽減につながる
設備投入に費用はかかりますが、効率よく業務が進むことで売上アップにも期待ができます。一人でより効率よく飲食店を運営するために検討してみましょう。
メニュー開発のコツ
飲食店を開業する際、お客様に喜んでもらえるメニューを考えることは重要です。しかし、一人で開業する場合は、すべての業務を一人で行うことも考えてメニュー開発を行いましょう。
特におすすめなのが、作り置きできるメニューです。カフェでランチ営業をする場合であれば、副菜はすべて作り置きしておいて、メインだけその場で作ると手間が省けます。
逆に、その料理を作っているときはほかの業務を何もできない、というメニューはやめておきましょう。業務効率が悪化し、お客様の満足度にも影響を与えてしまう可能性があります。
また、メニュー数は増やしすぎないようにしましょう。お客様にいろいろなメニューを楽しんでもらいたい場合は、定番メニューを数個置き、週替わりなどでおすすめメニューの入れ替えを行うのがおすすめです。
お店のコンセプトを意識しながら、一人で店舗を回せることを踏まえたメニュー開発を行いましょう。
まとめ
必要な資格や申請を出せば一人で飲食店を開業することは可能です。
一人で飲食店の開業する際の必要な資格として、食品衛生責任者はどのような規模であっても必ず必要となるため、早めに取得しておきましょう。また、収容人数(従業員も含む)が30名以上の場合は、防火管理者の資格も必要となります。店舗の面積や収容人数を確認しておきましょう。
そのほか、一人で飲食店を開業する際に必要な届け出もいくつか存在するため、忘れないようにしっかりと確認しておく必要があります。
一人で飲食店を開業する場合、自分一人ですべてを決定できるため、自分がやりたかったことを実現する絶好のチャンスです。また、開業資金や人件費を削減できるなどのメリットもあります。ただし、売上が伸びにくかったり、休みが取りにくかったりといったデメリットがあることも理解しておきましょう。
一人で飲食店開業を検討している方は、デメリットを把握し、その対策も考えておくことがおすすめです。
<関連記事>
小さな飲食店の開業を成功させるポイントとは?
何坪あれば飲食店が開業できるのか?お店の広さを決める4つの重要ポイントを解説!
飲食店を開業するには何をしたら良いの?やるべきことを抜け漏れなく解説!
この記事を監修した人
木下洋平
経営コンサルタント
中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント、日商簿記1級を保有する。株式会社リクルートなどの勤務を経て現職。