今、注目の横丁から分析する”横丁ブーム”の未来
狭いエリアに小さな飲食店が軒を連ねる、昔ながらの「横丁」。2010年前後から、若者や女性の集客を意識した新感覚の「ネオ(新しい)横丁」が全国各地でオープンし、繁盛ぶりを見せています。
ネオ横丁の大きな特徴は、若者ウケする「レトロだけどオシャレ」な店舗づくり。そしてアジアンフーズも含めた最先端の料理が楽しめること。またDJブースや大型ビジョン、ミラーボールなどを備えたネオ横丁も登場し、イベントスペースでダンスや音楽ライブなども楽しめます。
もともと横丁は、客席同士や、客席とカウンター越しの店員との距離が短く、それぞれ会話を交わしながら飲食を楽しむことができる場でした。ネオ横丁でもそれは同じ。そのため出会いを求めて訪れる若者も多く、まるで「リアルSNS」のような役割を果たしていると言えるでしょう。
各施設とも目指すのは「おじさんだけでなく広い世代で楽しめる横丁」とのことですが、ネット上のレビューを見ると、「若者向きなので利用しづらい」という年配者の投稿も散見されます。
2010年前後からしばらくネオ横丁の開業が相次いだことで、「横丁ブーム」といわれました。そして2020年代に入ると、注目度の高いネオ横丁が首都圏を中心に次々とオープン。そのため一部で「横丁ブームは10年ごとに起きる」とされています。
横丁ブームの背景にあるのは社会不安だともいわれています。不景気や災害などで社会が不安定になると、人と人のつながりが感じられてしかも低予算で飲食できる横丁に、若者が集まるというのです。確かに、2011年の東日本大震災や2020年代初頭のコロナ禍が、横丁ブームを促したと考えるのは合理的です。特にコロナ禍のさなかに開業したネオ横丁が、密を避けにくい店舗構造でありながら大盛況を見せた事実は、注目に値します。
ブームと呼ばれる限り、ネオ横丁にも人々に飽きられる時が訪れるはずです。そしてその後、社会不安や新たな施設の開業などにより、再びブームが生じるのでしょうか。しかし10数年の間飽きられることなく、利用客を集め続けているネオ横丁もあります。またブームが去ってネオ横丁がバタバタと倒れたという話も聞きません。10年周期説については、長期にわたる検証が必要かもしれません。
一方、ある経営コンサルタントによれば、ブームとは「供給過剰の直前の状態」です。そう考えれば、横丁ブームと言われる現在は供給過剰、つまり過当競争に陥る直前だということになります。
しかしコロナ禍が一段落したこともあって、ネオ横丁のほとんどが盛況を誇っているのが現状です。注目したいネオ横丁の特徴を改めて見ることで、ブームの行方が少し鮮明になるかもしれません。
横丁にはインキュベーション機能がある
ネオ横丁のパイオニアと言えるのが2008年5月に開業した「恵比寿横丁」。開業直後から大きな話題を呼び、その後も大勢の利用客を集め続けている超繁盛スポットです。JR山手線などの恵比寿駅東口から徒歩2分と、大変便利な立地にあります。
総面積356㎡のレトロな雰囲気のワンフロアに20店舗が出店し、総席数は480。その数字から分かる通り、さほど広くない施設内に小さな飲食店が密集し、それぞれの店舗内もまた密状態です。
そうしたなかで、見知らぬお客同士でもにぎやかに飲み交わすのが恵比寿横丁の楽しさなのです。また横丁内ではしごをしたり、他の店に出前を注文したりできることも魅力となっています。
同施設をプロデュースした浜倉的商店製作所の浜倉好宣社長は、横丁の文化を衰退させないために「敢えて横丁の雰囲気を人工的に再現し、若い人でも気軽に来られる場所をつくりました」と話します。
横丁とは「表通りから横に入った細い道」であり、その起源は終戦直後、全国で同時多発的に始まった「闇市」にさかのぼります。闇市は当時の食糧管理法に触れる違法行為でしたから、表通りで堂々と行うわけにはいかず、横丁で営まれたのです。
横丁の商業立地としての大きな特徴は、その名が示す通りロケーションにあります。大都市の大通りから1本入っただけの場所なので、横丁はメインストリートに次いで好立地だと言え、店の知名度が高まれば大勢の来店客を見込めます。しかも相対的に家賃が低いので、起業に適しているのです。従って横丁にはインキュベーション機能があるといえます。
シップスといえば、今では知名度の高い大手ファッション専門店です。しかし初期の頃は超一流商業地である銀座の裏通り、すなわち比較的低投資で出店できる横丁でファンを増やし、成長を遂げたのです。

「歌舞伎横丁」が創り出す異次元のにぎにぎしさ
今述べた「一流エリアの二等立地」に開発されたネオ横丁もありますが、現状はテナント賃料の高い立地が増えている印象を受けます。20年6月、「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」3階に「虎ノ門横丁」がオープンしました。ヒルズ内の超高級レジデンスの最高額は300億円と言われています。虎ノ門横丁には、焼鳥で初のミシュラン星を獲得した「バードランド」をはじめ、多店舗展開をしてこなかった東京中の名店26店舗が出店しました。メニュー価格はやはりそれなりの価格設定です。例えばカウンタースイーツの店では虎ノ門限定のチョコパフェが税込み1590円。法外な高さではありませんが、もはや「横丁価格」ではありません。グルメサイトのレビューを見ると、「値段はやはり虎ノ門価格なのがかなり残念」といったコメントが見られました。
また虎ノ門横丁に対してではありませんが、接客態度に不満を感じて「二度と行かない」という投稿も、ネオ横丁のレビューで何件か目にします。人手不足による過重労働が背景にあるのでしょうか。ブームのさなかにこそ飲食店経営の基本を振り返ることが大切です。さもないと、ブームの終焉を早めることになるかもしれません。
2023年4月14日に、総面積1000㎡、総席数1300席の「新宿カブキhall-歌舞伎横丁-」がオープンしました。歌舞伎横丁は「祭」をテーマに食と音楽と映像を融合させた、次世代エンターテインメントフードホール(プレスリリースより)です。
飲食は「祭り」と「路地裏」をモチーフにした全10業態。北海道~九州、沖縄の地域料理からB級グルメまで、全国のご当地グルメが集結。さらに韓国からもサムギョプサルからB級グルメまで、ソウルフードが加わっています。
ホールには大型LEDビジョンやDJブースをはじめ、最新の照明・音響を導入。様々なカルチャーイベントや祭り団体などによるパフォーマンス、企業イベントなども開催されています。祭りをテーマにしたネオ横丁は少なくありませんが、規模、内容ともに歌舞伎横丁が群を抜いているといえるでしょう。ネオンの光と色彩、そして人で溢れた店内は、異次元のにぎにぎしさであり、それがすなわち「ネオ祭り」なのだと感じさせます。
ネオ横丁は、もはや「新しい横丁」とは言い難いかもしれません。定義を変えつつ進化し続ける、エネルギーに満ち溢れた新業態ではないかと思われます。

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