インバウンド需要を追い風に成長!寿司居酒屋が持つポテンシャル
外食業界は、ポストコロナ社会に突入しています。その勢いを支えているのが、インバウンド需要の復活です。
2022年10月に新規入国制限の見直しがされ、3年ぶりに外国人観光客の入国の受け入れが再開されました。23年3月には19年同月比65.8%の181万7500人となるなど、インバウンド需要が急速に回復してきています。国を挙げて訪日外国人を増やそうという流れもある中、インバウンドの取り込みの成否が飲食店成長の鍵となるといっても過言ではないでしょう。
そうした背景もあり、これまで以上に盛り上がっているのが寿司酒場業態です。寿司酒場は堅調なインバウンド需要を取り込むため、コロナ禍前から業態としての注目度が高まっていました。しかしコロナ禍以降、ハレの日の寿司をリーズナブルに楽しめる提案が、閉塞した日常を過ごす人たちの心をつかみ、「スシ」を掲げる店舗が増加しました。これまでの寿司の概念を覆す創作系のメニューや、写真映えする提案をする店は“カタカナ寿司”と呼ばれ、SNSを起点に人気が広がりました。そこにインバウンド需要が戻ってきて、一気にブレイクしたというわけです。
ここでは、自社の強みを活かした提案で、国内外のお客を吸引する寿司居酒屋をご紹介します。
グループ力を活かした職人技と開発力が強み
まずは、東京・新宿三丁目で22年7月にオープンした「日々晴々 新宿三丁目店」です。「カジュアルでありながら本格的な寿司で、毎日をハレの日に」をコンセプトに、多彩な飲食業態を持つ株式会社ダイナックが手掛けた新業態です。「LUCUA osaka(ルクア大阪)」の地下2階にある「バルチカ」に2号店もオープンし、その勢いはさらに増しています。
店内は、オープンキッチンを臨む白木のカウンターを中心とした、ライブ感が味わえる開放的な空間。道路に面した側は素通しのガラス窓で、あえて店内の賑わいが外を通る人にも伝わる造りを施しています。
メニューは旬の素材にこだわり、四季折々の味覚を重視し、稀少な魚種も随時取り入れて、その日のお薦めを壁に掲出しています。強みの一つは、ダイナックの店舗で経験を積んだ調理人がいることです。「店内で魚をさばき、仕込みにひと手間かけ、職人が握る」という、寿司専門店さながらの技術で寿司を展開しています。例えば、マグロは生本マグロにこだわり、シャリは赤酢をベースに米酢、バルサミコ酢を合わせたオリジナル。生本マグロ漬け、青魚すだちなど職人技が光る握り5貫に、サプライズでスモークした寿司を1貫客席で加えて提供する「晴々盛り」がシグネチャーメニューとなっています。
一方、つまみはラム肉の料理やアクアパッツァなど、洋のテイストを取り入れたものや、ウニの殻に盛り付けた「うにプリン」といったビジュアルに凝ったものもそろいます。こうした商品開発力も強みで、多種多様な業態の商品開発を手掛けてきた、同社の商品開発部門がオープン時に商品開発を担っています。
アルコールは日本酒やオーガニックを中心としたワインの他、グループのサントリーのグルメ開発部が開発した「寿司に合う、抹茶マティーニ」や「大葉ギムレット」などのカクテルを打ち出しています。
レコメンド機能のあるモバイルオーダーを導入し、2回目以降のお客だけの裏メニューも用意することで、リピート率アップを狙っています。外国人客も目立ち、2〜3軒目といった遅い時間の利用客も多いようです。

月商1000万円超店が続出する期待の新ブランド
羽田市場株式会社といえば、羽田空港を活用した鮮魚の卸業として、知っている人も多いでしょう。その社名の通り、全国各地の「朝獲れ鮮魚」を羽田空港に空輸し、高い鮮度のままその日のうちに都内の店舗に届ける流通に強みを持つ企業です。
一方ここ数年は、飲食店の運営やフランチャイズ(FC)展開で、大きな存在感を発揮しています。例えばFC店の「回転寿司羽田市場 グランスタ東京店」(東京・丸の内)は、月商5300万円を記録するなど、施設内No.1の売上を叩き出しています。そうした人気店をつくるノウハウを活かし、新たに開発したのが寿司酒場業態「超速鮮魚®︎寿司 羽田市場」です。
現在、福岡県で1店を展開し、開店以降、好調な売上を上げています。寿司酒場業態を開発した背景には、規格外で買い取ってもらえない魚の活用方法にあったようです。これまでそうした魚は一定期間保存しながら、活用先を決めていたものの、結局見つからずに破棄になるケースもありました。そうしたもったいない魚をなんとか活用できないかと、寿司酒場業態に目をつけたとのことです。
同ブランドでは、“もったいない魚”を活用したメニュー提案を行っています。象徴的なのが「ヤリイカ姿作り」や「絶品!カワハギ肝ぽん酢」。ともに傷があったり、大きさが足りなかったりしたため取引が成立されなかったものを使っており、鮮度は抜群に高いにもかかわらず低価格での提供を実現します。メニュー数は100品を超えており、これまで市場に卸せなかった魚なども順次扱うため、来店するたびに新鮮な驚きが味わえます。
幅広い客層をキャッチするため、出店立地を選ばないのも特徴です。同ブランドに業態転換した店では、数百万円の売上を1000万円超まで伸ばした実績もあるほどです。
現在、日本の漁獲量はピーク時に比べて激減しています。また漁師の高齢化や後継者不足も深刻です。そうした構造的な問題を解決するためにも、同ブランドが果たす役割は大きいでしょう。

毎日でも通える提案で西日本を席巻する寿司酒場
大阪発祥で、大きなインパクトを残しながら店数を徐々に拡大させているのが「すし酒場 さしす」です。経営母体の株式会社JOU JOUは、大阪府内で「大衆 焼肉ホルモン 大松」や「大衆酒場 天神大ホール」などを展開しています。
20年1月に大阪・梅田でオープンしたすし酒場 さしすは「ハレの日に食べることの多い寿司を、もっとカジュアルに楽しめないか」を突き詰め、コンセプトを確立。ターゲットである30〜40代の会社員が、お小遣いの範囲で月に何度も通えるよう、客単価を2500円に設定しました。
コロナ禍中は、当初積極的に集客をしていなかった20〜30代の女性に受け、一気に人気に火がつきました。現在、大阪、兵庫、福岡、京都で計11店を展開しており、どの店も行列ができています。2024年7月31日にオープンした「KITTE大阪」にも店舗を開店するなど、ブランドに対する注目度は高いです。
同店のメニューは、安さと独創性という2つの軸でお客様を惹きつけています。また、見て楽しいメニューも取り入れており、見た目のインパクトからSNSで拡散され人気が広がりました。特に国産牛の炙りにウニを合わせた「うにく」や、端から中トロがはみ出す「とろ鉄火巻」などが象徴的。また、「本マグロ(二貫)」などは308円と、当初のコンセプトの通り、月に何度も通える価格設定で、非常に高いオーダー率を誇ります。寿司だけでなく、肉料理や煮込みのメニューもそろえ、飽きずに通い続けてもらう仕掛けも特徴です。
同店は繁華街の路面ではなく、ビル地階でも集客ができるブランド力を誇ります。目的来店で訪れるお客が多いため、出店立地を選ばないと言っても過言ではありません。そのため、同社では今後も積極的にビル地階への出店を狙っていくようです。
既存店では地域に根づいた店をつくりながら、流行に敏感なZ世代や、日本文化を楽しみたいインバウンド客も集客しています。こうしたブランド力の高さから、商業施設からの出店オファーも多く、今注目される寿司居酒屋といえるでしょう。