これまでのブームとは一味違う? 今、立ち飲み業態に注目が集まる訳

立ち飲みのブームの変遷

今のトレンドは、ずばり立ち飲み業態です。これはコロナ禍で変化した人の流れや、外食店の絶対数の減少など、従来の業態が通用しなくなった結果といえます。コロナ禍でアルコール業態から昼の食事業態にシフトする企業も増えました。大人数で利用する居酒屋が減少する一方で、じわじわと増えてきているのが立ち飲み業態なのです。

立ち飲み業態のブームは、幾度となく訪れてきました。かつては、酒屋の一角で飲ませる角打ちが流行り、スペインやフランスのガッツリ系料理が楽しめるバル・バール、高原価率の料理をあえて立ちで提供する「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」などが一世を風靡しました。形や呼び名を変えてはいますが、立って語らいながら、あるいはしっぽりと飲むという文化は根強いものです。

少し前の立ち飲みブームを牽引したのが、株式会社アクティブソースが展開する「晩杯屋」でしょう。同店は2009年、東京・武蔵小山に小さな店でスタート。都内を中心に一気に店数を拡大させました。当時は「マグロ刺し200円」のインパクトで話題を呼び、どの店も大繁盛するヒット業態でした。

以上を踏まえて、なぜ今、再び立ち飲みに注目が集まっているのか分析していきましょう。

ポストコロナで求められる業態

再び立ち飲み業態に注目が集まっている理由は、①コロナ禍での消費者行動の変化と、②飲食業をとりまく市場環境の変化の二つが上げられます。

①は、コロナ禍で外食が減り、内食・中食が増加するといった消費者行動の変化です。特に外食機会の中でも、コロナ禍以前は盛んだった大規模宴会が壊滅し、少人数宴会が中心となっています。これがコロナ禍明けの現在でも完全に戻りきっているとはいえません。また、0次会や2〜3次会の利用がなくなり、少人数の飲み会でも一軒完結という使い方が増えています。そこで求められているのが、もう少し飲みたいというときに、一人で気軽に行ける立ち飲み屋なのです。

もう少し飲みたいといった人は、もともと飲み好きであることから、一度店を気に入ったら長く通ってくれる可能性もあります。思い返せばコロナ禍中でも強かった店は、常連客が多いお店でした。そうした流れも鑑みると、立ち飲み業態がコロナ禍明けでブーム化しているのも納得できるのではないでしょうか。

②は、原材料や光熱費の高騰といった市場環境の変化による影響です。ナショナルチェーン店ですら大幅な、あるいは段階的な値上げをせざるを得なく、よりシビアな値上げ敢行に踏み切った個人店も多いでしょう。それによる顧客の離反が発生し、思うように売上げを上げられずにいる飲食店も少なくありません。

こうした背景から、原材料費や人件費といったコストをうまくコントロールする必要性が、これまで以上に高まってきています。立ち飲み業態は少人数のスタッフで営業ができたり、席数に関係なくお客を入れられたりといったメリットがあります。そのため、人件費を押さえつつ売上げを最大化できる。コストが高騰している今、最適な業態といえるでしょう。

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話題の商業施設にも立ち飲み業態が続々

立ち飲みのトレンドは「麻布台ヒルズ」や「虎ノ門ヒルズ」「東京ミッドタウン八重洲」といった新興商業施設にも来ていて、いずれの施設にも立ち飲みを提案する飲食店が必ずといっていいほど入居しています。従来の商業施設に比べ、立ち飲み業態の積極的な提案がされているようです。

例えば、麻布台ヒルズで2023年11月にオープンした「MIMOSA Natural wine stand(ミモザ ナチュラルワインスタンド)」です。経営は、東京・池袋を中心に15店(うち物販店4店)を展開する、株式会社グリップセカンドです。ナチュラルワインの角打ちスタンドとして、昼は焼き立てのパンを使ったサンドイッチをはじめ、サラダやスープ、ランチボックスなどを用意しています。造り手の物語があるナチュラルワインから、お気に入りの1本を見つける場所としても提案しており、「自由に・楽しく・カジュアルに」使える一軒として人気です。

また、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの飲食エリア「T-MARKET」内では、レモン色のタイルで注目を浴びるスタンドバー「PON CUE BON(ポンキュボン)」があります。同店は、2023年10月にオープンした立ち飲み業態で、東京・渋谷のイタリアン「アウレリオ」と、広島のレモンサワーバル「レモンスタンド」がコラボ。広島県産レモンを使ったレモンサワーと、広島県産の生牡蠣を看板に、近隣で働く会社員から買い物客の休憩などで利用されています。飲み始めの0次会でも、締めの1杯でも、誰でも気軽に立ち寄れるコミュニケーション酒場となっています。

そして、2023年3月に開業した東京ミッドタウン八重洲の2階には、「ヤエスパブリック(ヤエパブ)」という飲食や物販などが並ぶフロアが入っています。ヤエパブは、路地裏を再現した「八重洲のロジウラ」、スキマ時間を楽しむ物販・休憩エリア「イチジテイシ」、個性派の立ち飲み業態が並ぶ「ALL STANDS」の三つで構成されています。この立ち飲み業態は計5店からなり、17〜23時までは5店のメニューをモバイルオーダーでまとめて注文可能と、横丁のような使い方ができます。大阪でコスパ最強と名高い「立喰酒場 金獅子」や、東京・白山の人気台湾料理店「オルソー」、東京・学芸大学屈指の人気店「リ・カーリカ」系列の「ta.bacco」、フルールサワーとクラフトビールの「クラフト麦酒酒場 シトラバ」、東京。恵比寿で人気のミュージックバーが手掛ける「STAND BAR pièce」が並びます。

各店、厨房に面したカウンター席が用意されていますが、周囲に立ち飲みのフリースペースもあり、各店舗で購入した商品をどのスペースでも楽しめる、テーマパークのような空間です。東京駅に近く、バスや新幹線の待ち時間に楽しめるよう、立ち飲みという気軽な利用シーンの提案で、サク飲みお客様を惹きつけています。

独立の方法として選ばれる立ち飲み

昨今、独立の方法として、立ち飲み業態を選ぶ方も増えています。そもそも現在、人件費や原材料費以外にも、家賃の上昇も続いています。都心などでは家賃の高騰が激しく、ある程度の坪数の物件を借りたら採算が取れないというケースも多いです。そこでリスクを減らすため、立ち飲みでの開業を選択し、坪月商が100万円を超えるようなお店も少なくありません。

立ち飲み業態は、キッチンが限られているため、料理のオペレーションを簡略化する必要があります。だからこそ、専門性を極められるのも事実です。実際、中華やタイ料理、フレンチはもちろん、シュウマイやギョウザなど一品だけに特化した業態にし、人気となったお店もあります。

コロナ禍明けで外食機会が戻りつつある一方、まだまだハシゴ酒というかつての文化は戻っていません。そうした中、0次会や2〜3軒目にふらっと立ち寄れる立ち飲み業態は、時代に合った業態といえるでしょう。今後、立ち飲み業態から、次の飲食業界を盛り上げるブームが生まれても不思議ではありません。

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