冷凍自動販売機が開く飲食業界の未来
コロナ禍で外食が手控えられるなか、飲食店の多くがテイクアウトやデリバリーなど中食需要への対応強化で売上げ維持を図ってきました。そうした状況において、新たな販路としてここ数年導入店が増えているのが、冷凍食品を冷凍のまま販売する冷凍自動販売機です。
2021年1月末、サンデン・リテールシステムがマルチストック式冷凍自販機「ど冷(ひ)えもん」を発売しました。反響は大きく、同機は半年ほどの間に想定を大幅に上回る1000台超の注文を獲得。同社によると、企画当初は食品メーカーやコンビニでの導入を想定していました。ところがいざ発売すると、コロナ禍で販売方法に悩む飲食店から予想外に多くの注文が寄せられたのです。
その流れを受けて、発売後3年足らずで販売数は6000台を突破しました。導入例で多数を占めるのは、飲食店が自店の商品販売を目的に、店の前などに設置するパターンです。ほかに、空きスペースを持つ商業施設運営者や不動産会社が設置するケースもあり、販売する商品はラーメンや餃子、カレー、焼き肉やバーベキュー用の精肉などがあります。
サンデン・リテールシステムでは、ど冷えもんの企画当初、販売されるのは300円前後の商品だろうと想定していました。しかし、実際には1000円前後でも売れ行きが良く、中には5000円の商品が売れるケースもあります。購入客の反応は「有名店の味を手軽に試せる」「単価が高くても、店舗へ直接行かなくていいのが良い」「並ぶ必要がないのが良い」など好評です。また小さな子どものいる家庭では「飲食店だと周囲が気になる。家で気軽においしい食事を摂れるのでいい」という声が聞かれます。
夜間の利用が多いのも冷凍自販機の特徴です。要因の一つは、女性が抵抗なく買いに行けること。女性の多くはメイクせずに店に入ることをためらいます。しかし夜間に家から自販機まで往復する程度なら、ノーメイクでも平気なのです。住宅立地にある自販機は夜間でも結構売れています。

冷凍自動販売機導入のメリット、デメリット
飲食店が冷凍自動販売機を導入する場合の主なメリットやデメリットを挙げて行きましょう。
■メリット
- 24時間年中無休で販売できる
冷凍自販機は24時間、一年中休まずに稼働します。店の営業時間外でも商品を提供できるので、店が時間的制約によって取り逃していたお客にも販売できます。
- 人件費や家賃がかからない
24時間無休で働く人はいませんが、冷凍自販機は文句も言わずに、24時間年中無休、しかも無給で稼働します。従って人件費がかからず、人手不足対策にもなります。また店舗の敷地内や空きスペースを活用して冷凍自販機を設置できれば、家賃が不要です。ランニングコストは電気代だけで、だいたい毎月1万円前後かかるのが現状です。
- 食品ロスの削減につながる
商品を冷凍すると保存期間が延びるため、食品ロスの削減にもつながります。
- 店舗の集客効果が期待できる
冷凍自販機は自由にデザイン(ラッピング)を変更できる機種もあるため、目立つデザインにすれば認知度が高まり、SNSで話題になって集客効果を発揮します。
■デメリット
- 初期費用がかかる
冷凍自動販売機を購入する価格は200万円程です。かなり高額のため、リース契約で導入する飲食店が少なくありません。
- 盗難や破損の可能性がある
冷凍自販機は屋外や不特定多数の人が通行する場所に24時間設置しておくことがほとんどでなので、盗難や破損の可能性があります。その際には経済的な負担が生じます。
- 電気代がかかる
先述の通り、毎月電気代がかかります。
- 商品補充や管理が必要
人件費がかからないと述べましたが、商品補充のための人的コストがかかります。売れ行きの良い自販機だと欠品しやすく、客離れが生じる可能性があるので、こまめな対応や管理が必要です。遠方に設置した場合は負担が大きいかもしれません。

冷凍自動販売機の今後
株式会社日本能率協会総合研究所 マーケティング・データ・バンクは2022年に冷凍自動販売機市場の調査を実施し、市場規模の推計を行いました。その結果、2027年の冷凍自動販売機の国内販売台数が、7800台となる見込みであるとしました(2024年は6300台)。また冷凍自動販売機は今後、取扱商品のバリエーション拡大や認知度向上が進み、それによって消費者の需要増加と運用実績の増加で採算性が明確化し、市場拡大が進む見通しであると予測しています。
しかし、最近では冷凍自販機の普及ペースに一服感が見られるとの声もあります。日本能率協会総合研究所による国内販売台数の予測でも、2024年から2027年までの平均年間増加率は7%弱で、急伸とは言い難い数値です。
一方で、冷凍自販機市場がさらにヒートアップするという予測をもとに、早くから冷凍自販機に注目して販売代理店になった会社もあります。全国の冷凍自販機のオーナーがネットを通じ、飲食店の冷凍食品を売買できるプラットフォームも設立。冷凍自販機にずっと同じ商品が並んでいると、いずれお客に飽きられてしまうだろうという予測が、新事業立ち上げのベースにあります。
飲料自販機にはさまざまな商品が並んでいるから飽きられません。だから冷凍自販機も、自店のメニューだけでなく他店の看板メニューやデザートなども購入できるようにすればもっと多くの人に利用してもらえるだろうとの考えです。
冷凍自販機は、料理の販売に機能性を与えてくれる魔法の箱だといえます。今後の活用次第で、飲食店の救世主になるかもしれません。